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京都・祇園のフレンチ「祇をん 尚」ワインイベント 〜コート・デュ・ローヌの思い出〜前編

私の先輩ソムリエであり愛すべき友人「尚一郎さん」が祇園で営むワインバー「祇をん 尚」で、ローヌ地方のワインと料理のイベントが開催されると聞き、仕事仲間のカルロスさんと行ってきました。

尚一郎さんは、2024年5月にフランスへ研修旅行をしており、現地で感じた感動と思い出をお客様に味わっていただきたいという思いから今回のイベントを開催したとのことです。

目次

コート・デュ・ローヌについて

コート・デュ・ローヌは、フランスのワイン産地で言うと「ブルゴーニュ」と「プロヴァンス」の間に位置しています。「リヨン」の南あたりから「アヴィニヨン」周辺までの250kmにかけて広がるワイン産地です。

ローヌ渓谷と呼ばれるだけあって、ローヌ川から街を挟んで断崖絶壁のような急斜面の谷にブドウ畑が広がっています。水はけがよく日照も十分なこの地域では、濃厚でスパイシーかつ力強い味わいの赤ワインが生まれます。

私も26歳の頃に、ソムリエの研修でコート・デュ・ローヌを訪ねたことがあります。ワインの素晴らしさもさることながら、ローヌの街並みも非常に美しかったです。朝日の光が反射してキラキラ光るローヌ川のほとりを散歩したのは、とても良い思い出です。

フランスの赤ワインといえば、ボルドーやブルゴーニュが有名です。ローヌの赤ワインはどうしてもこの2大巨頭の陰に隠れがちで陽の目を見ないのですが、私はローヌ地方の赤ワインが最も好きです。

昔から、みんなが好きなものを好きになりたくないのですが、その習性はワインでも遺憾なく発揮されているようです。

乾杯はちょっと変わったモヒート

いつも通り、今にも破裂しそうな丸い顔に満面の笑みを浮かべた尚一郎さんが出迎えてくれ、案内された席につきます。

ローヌ地方では発泡性のワインが作られていないので、(乾杯には何が出てくるのだろう)とワクワクして待っていたところ、モヒートが出てきました。モヒートは「ラム、ミント、砂糖、ソーダ」で作るカクテルです。暑い夏にぴったりのカクテルですね。

「ローヌ関係ないやん!」と思わずツッコミを入れてしまいましたが、そこはさすが尚一郎さん、使われていたのはラムではなく「パスティス」という薬草系のリキュールでした。

フランス研修の現地で飲んだパスティスがあまりに美味しかったので、食前酒はパスティス・モヒートでいこうと決めていたようです。しょっぱなから変化球で攻めてこられて、いやが応にもこの後の料理とワインへの期待が高まります。

後ろで腰に手を当ててドヤっている尚一郎さんがやや鼻につきますが、その気持ちをグッと押し殺して乾いた喉にモヒートを流し込みます。

サンジョセフ・ブラン 2021(アンドレ・ペレ)

最初のワインは「サンジョセフ・ブラン 2021(アンドレ・ペレ)」です。

サンジョセフ・ブラン 2021(アンドレ・ペレ)

【サンジョセフ・ブラン 2021(アンドレ・ペレ)】

・生産地:コート・デュ・ローヌ北部
・AOP(原産地呼称):サン・ジョセフ
・生産者:アンドレ・ペレ
・ブドウ品種:マルサンヌ、ルーサンヌ
・甘辛度:辛口
・生産年:2021

<特徴>
白桃や花梨のような華やかな香り。滑らかで丸い酸味。とにかく香りがとても良いワイン!

コート・デュ・ローヌのワイン産地は北部と南部に分かれています。サンジョセフは北部に位置する産地で、白ワインだけでなく赤ワインも生産されています。

マルサンヌ、ルーサンヌというローヌ特有のブドウ品種は、華やかな香りと丸い酸味が特徴です。レモンのような酸っぱい酸味というよりは、ヨーグルトのような乳酸の感じをイメージしていただくと分かりやすいかと思います。

こちらのサンジョゼフに合わせて出てきた料理は「ドンブ産 グルヌイユのムニエル」でした。グルヌイユ、何か分かりますか?

ドンブ産 グルヌイユのムニエル
日本人にはあまり馴染みのない食材「グルヌイユ」

正解は「カエル」です。

フランス料理ではメジャーな食材ですが、中でも「ローヌ・アルプ地方アン県西部」にあるドンブ湿地帯で獲れるものが最高級とされています。

私もかつてローヌ地方を訪れた時に、街のビストロでグルヌイユを食べたのを思い出しました。味や食感は鶏肉に似ているので、未体験の方はぜひ機会があれば試してみてください。

パセリのソースのほろ苦さとグルヌイユの旨味がとてもよくマッチしていて、ワインとの相性も良かったです。

シャトーヌフ・デュ・パプ・ブラン 2020(ドメーヌ・デュ・ペゴ)

続いてのワインは、ローヌ地方南部「シャトーヌフ・デュ・パプ」の白ワインです。

【シャトーヌフ・デュ・パプ・ブラン 2020(ドメーヌ・デュ・ペゴ)】

・生産地:コート・デュ・ローヌ南部
・AOP(原産地呼称):シャトーヌフ・デュ・パプ
・生産者:ドメーヌ・デュ・ペゴ
・ブドウ品種:クレーレット、グルナッシュ・ブラン、ルーサンヌ、ブールブーラン、その他
・生産年:2020年

<特徴>
白桃やパイナップルなどのトロピカルフルーツの香りに、少し石灰(チョーク)のミネラル感。オリエンタルスパイスの香りもほのかに。滑らかな口当たりで重厚な味わい。

シャトーヌフ・デュ・パプとは「法王の新しい城」の意味で、14世紀頃、この地(南ローヌのアヴィニョンあたり)に法王庁が置かれていたことが由来です。

シャトーヌフ・デュ・パプで作られたワインはローマ法王に献上されていた歴史があります。そのため、シャトーヌフ・デュ・パプのボトルには「ローマ法王庁のロゴ」が見られます。(上記写真のボトルにもありますね)

そんなシャトーヌフ・デュ・パプの中でもトップ生産者に名を連ねるのがドメーヌ・デュ・ペゴです。ペゴのワインはそもそもの生産量が少ない上に日本への割り当ても少ないため、よく手に入ったなーと内心驚いていました。

そんな私の雰囲気を察してか、モヒートの時と負けず劣らずのドヤ顔で尚一郎さんが注いだ黄金色のワインに合わせた料理はこちら。「プーレ・ジョーヌとブレス・プーレのバロティーヌ」。

たぶん日本で一番美味しいバロティーヌ

バロティーヌは、鶏・鳩・鶉などの肉に詰め物をして低温調理したフランス料理です。一般的には、具材をお肉で包んで円筒状に仕上げたものをスライスして提供されます。

今回の「祇をん 尚」では、贅沢にプーレ・ジョーヌとブレス・プーレという2種類の鶏肉が使われており、中にはフォワグラが包まれていました。

【プーレ・ジョーヌ】
フランスの地鶏の一つで、黄色い(=ジョーヌ)鶏(=プーレ)。
主にトウモロコシを食べさせて飼育するため、皮や肉が黄色くなる。

【ブレス・プーレ】
フランスのブレス地方で生まれる最高級の鶏肉。
ワインのように飼育方法などが厳しく定められており、ブレスという「原産地呼称」が保護されている。

しっとりとした鶏肉にナイフを入れると、とろとろのフォアグラが溢れ出してきます。それがソースと一体になって、なんとも官能的な味わいでした。シャトーヌフ・デュ・パプの白ワインとの相性も抜群です。

シャトーヌフ・デュ・パプ・ルージュ 2020(ドメーヌ・ラ・バロッシュ)

先述のバロティーヌ、「白ワインと合わせても美味しいけど、ぜひ赤ワインとも合わせてみてね」という尚一郎さん。巨体に似合わず繊細かつ粋なサービスをしてくれますね。

用意してくれたワインは、同じシャトーヌフ・デュ・パプの赤ワインでした。

【シャトーヌフ・デュ・パプ・ルージュ2020(ドメーヌ・ラ・バロッシュ)】

・生産地:コート・デュ・ローヌ南部
・AOP(原産地呼称):シャトーヌフ・デュ・パプ
・生産者:ドメーヌ・ラ・バロッシュ
・ブドウ品種:グルナッシュ、ムールヴェードル、サンソー、シラー
・生産年:2020年

<特徴>
凝縮したベリーの香り、シルクのように滑らかな渋味。洗練・エレガントという表現がぴったり。

ドメーヌ・ラ・バロッシュは、1703年からシャトーヌフ・デュ・パプの地でワインを作っている歴史あるワイナリーです。特に近年、その評価はうなぎのぼりで「シャトーヌフ・デュ・パプのライジングスター」と称されています。

こちらもバロティーヌとの相性はとても良かったですが、個人的には白ワインと合わせたほうが好みでした。

これだけ素晴らしいワインと料理を目の前にして「美味いわー」しか言えない私のことを、横でカルロスさんは「こいつほんまにソムリエなんか?」と怪訝そうな顔で見ていたことでしょう。

しかし本当に素晴らしい料理とワインを、たかだか40年生きただけの私ごときが稚拙な言葉で表現すること自体、おこがましいことなのです。

カルロスさんから投げかけられる疑惑の眼差しに気づかぬフリをしつつ、ぽっちゃり界のライジングスター尚一郎さんの次なる一手を心踊らせながら待ちます。

後編へ続きます

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この記事を書いた人

・飲食店の勤務経験12年(うち、ソムリエ9年)
・日本ソムリエ協会認定 ソムリエ
・C.R.D.O認定 公式ベネンシアドール
・2009年 JALUX WINE AWARD ファイナリスト

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