最近ワインと料理の相性(マリアージュ)にこだわってるんですが、合わせ方の基本とか、組み合わせのセオリーみたいなものってあるんですか?
自分が好きなように合わせといたらええねん。自分が美味しいと思えるんやったら、それこそが最高のマリアージュや。正解は教科書に書いてへん、ぴのこちゃんの心の中にあるんやで!
なかなか本質をついていますが、それではソムリエ失格ですね…(笑)。もちろんワインと料理の合わせ方には基本やセオリーがありますので、今回はマリアージュについて解説しましょう。ソムリエならではのテクニックも紹介しますよ!
よろしくお願いします!
ワインと料理のマリアージュとは
マリアージュは、料理とワインの素晴らしい組み合わせ(相性)のことです。
マリアージュの語源は、フランス語で結婚を意味する「mariage」です。この言葉は、結婚だけでなく「もともと別のものが合わさって調和を保っている状態」にも使われます。それが転じて、ワインと料理の相性にもマリアージュという言葉が使われるようになりました。
ワインと料理を合わせたときに、「ワインがいつも以上に美味しく感じる」「料理がいつもより美味しく感じられる」など感じることがあります。このように、ワインと料理がお互いを引き立て合い、相乗効果がもたらされている状態のことをマリアージュと言います。
ワインと料理の幸せな結婚、というわけね!
マリアージュとペアリングの違い
マリアージュと同じような意味の言葉に、ペアリングがあります。レストランや日本料理店などで、「ワインペアリング」や「日本酒のペアリング」と称して、料理1品ごとにお酒を合わせて提供されていますね。
厳密に言うと、マリアージュとペアリングは別の意味です。マリアージュは、料理とワインの相性が素晴らしい「状態」を表す言葉です。一方のペアリングは、ワインと料理を合わせる「行為」を指します。
しかし現在では、マリアージュもペアリングも同じ意味で使われることが多いです。マリアージュと言うと、どうしてもフランス料理をイメージされてしまうため、英語のペアリングを使う飲食店が増えています。
マリアージュの基本(初級編)
それでは、料理とワインのマリアージュについて基本(セオリー)を見ていきましょう!
- あっさりした味付けの料理には、あっさりした軽いワイン
- 濃い味付けの料理には、濃厚な重いワイン
- 料理(食材)の格にふさわしい格のワイン
- 地方料理には、その地方のワイン
- 魚介料理には白ワイン
- 肉料理には赤ワイン
- 困ったらロゼワインかスパークリングワイン
❶あっさりした味付けの料理には、あっさりした軽いワイン
基本的に、あっさりした味の料理には同じようにあっさりした軽いワインを合わせます。あっさりした料理に濃い味のワインを合わせてしまうと、ワインが料理の味をかき消して台無しにしてしまうためです。
あっさりした軽いワインとは、白ワインであれば「フレッシュでキレの良い酸味があるワイン」です。赤ワインなら、渋味が控えめでフルーティーなワイン」といった感じです。
あっさりした料理とは、調理法がシンプルな料理とも言い換えられます。例えば、カルパッチョのように、食材を切ってソースをかけただけのものや、焼いてレモンをかけただけの魚・肉料理などです。
シンプルな料理にはシンプルな味わいのワインを合わせる、と覚えておいてください。
【具体例】
・白身魚のカルパッチョと、イタリアのピノ・グリージョ(白ワイン)
・鶏もも肉の塩焼きと、ボージョレー(赤ワイン) など
❷濃い味付けの料理には、濃厚な重いワイン
濃い味の料理には、濃厚な重いワインを合わせるのも基本です。濃い味の料理に軽いワインを合わせると、料理の味の強さにワインが負けてしまい、ワインの味が感じられなくなってしまうためです。
白ワインなら、樽熟成したコクがあってまろやかなタイプ。赤ワインであれば、渋味がしっかりあって果実味が凝縮した濃厚なタイプを合わせるようにしましょう。
【具体例】
・白身魚のポワレ ブールブランソース(バターのソース)と、フランス・ブルゴーニュ地方のシャルドネ
・牛肉のステーキ 赤ワインソースと、フランス・ボルドー地方の赤ワイン など
❸料理(食材)の格にふさわしい格のワイン
料理(食材)の格とワインの格を合わせるのも、マリアージュの基本です。簡単に言うと、日常的な料理にはリーズナブルなデイリーワインを、高級な料理には高級ワインを合わせるということです。
日常的な料理に高級ワインを合わせると、ワインが美味しすぎて(パワーが強すぎて)バランスが悪くなります。一方、高級な料理にデイリーワインだと、なんだか物足りなく感じてしまうのです。
本来は個人の自由ですから、このような合わせ方をしても問題ありません。しかし、マリアージュ(=料理とワインがお互いを引き立てる)という観点からは、料理とワインの格を合わせることで相乗効果が期待できます。
大御所のベテラン歌手が新人歌手とデュエットしたら、実力の違いから素晴らしいハーモニーは生まれにくいですよね。ワインと料理も同じで、同じ格のもの同士だからこそ調和が生まれます。
【具体例】
・和牛フィレ(シャトーブリアン)のステーキと、ボルドーの格付け赤ワイン(※1)
・オマール海老のフリカッセ(煮込み)と、ブルゴーニュの特級白ワイン(※2)
※1=フランス・ボルドーの赤ワインは、1〜5級まで格付けされたものがあります
※2=フランス・ブルゴーニュのワインは各村の畑ごとに格付けされており、村名<1級畑<特級畑とワインの格が高くなっていきます
❹地方料理には、同じ地方のワイン
地方料理には、その土地のワインを合わせます。これは、同じ土地で育まれてきたもの同士は相性が良いという考え方からです。日本料理でも、その地方の料理にはその土地の日本酒を合わせて楽しむことが多いでしょう。
やや気分的なところはあるもしれませんが、実際に合わせてみると理にかなっていることが多く、たいていの場合は良い相性を見せてくれます。
【具体例】
・ブッフ・ブルギニョン(牛肉の赤ワイン煮込み)と、ブルゴーニュ地方の赤ワイン
・ナヴァラン・ダニョー(羊肉の煮込み)と、ローヌ地方の赤ワイン
・シュークルート(塩漬けキャベツと肉類の煮込み)と、アルザス地方の白ワイン
・ブイヤベース(魚介類のスープ)と、プロヴァンス地方のロゼワイン など
❺魚介料理には白ワイン
古くから言われてきたマリアージュの基本が、「魚介類には白ワイン」です。魚介類は脂が少なく淡白な味わいのものが多いため、渋味がある赤ワインよりも白ワインの方がよく合います。
ただ、何でもかんでも魚介類に白ワインを合わせればいいわけではありません。料理の味に応じて合わせる白ワインを変える必要があります。
さっぱりとした味付けの魚介料理には、フレッシュ&ドライなキレの良い辛口白ワインが良いでしょう。特に生の魚介類には、レモンや柑橘系の酸味・風味を持った白ワインを合わせると良いです。
バターやクリームを使った濃厚な味の魚介料理には、樽熟成させた濃厚こくまろ白ワインがよく合います。
ただし、例外もありますよ。魚介類といっても、たくさんの種類があります。例えば、マグロなど赤身の魚や青魚に関しては、白ワインが合うとは一概に言い切れません。軽めの赤ワインを冷やして合わせる方が、素晴らしいマリアージュを生むこともあります。
甲殻類だって白ワインがベストマリアージュとは限らへんで。僕はカニ料理と赤ワインはよく合うと思ってる。カニクリームコロッケとピノ・ノワールのマリアージュなんか最高やで。
あくまで基本は基本。それだけにとらわれないで、自由な発想でマリアージュを探求することが大切なのね!
❻肉料理には赤ワイン
こちらも同じく教科書通りのマリアージュの基本、「肉料理には赤ワイン」です。肉料理の脂を赤ワインの渋味がさっぱり流してくれるため、食が進むという理屈です。
しかしこちらも魚介料理と白ワイン同様、やみくもに合わせれば良いというものではありません。お肉の中には味が濃くて脂が乗ったものと、脂が控えめであっさりしたものがあります。前者は牛肉・羊肉・鴨肉・ジビエなどで、後者は鶏肉・豚肉などです。
味が濃くて脂が乗った赤身肉の料理は、渋味が強くてどっしり重い赤ワインがよく合います。反対に、比較的あっさりした味わいの豚肉や鶏肉(=白身肉)は、軽め〜中重の赤ワインを合わせるのが良いです。
ただしこれも、一概には言えへん。あとで詳しく解説するけど、お肉の種類や調理法、ソースの種類によっては、お肉料理と言えども白ワインを合わせる方が素晴らしいマリアージュを生むこともあるんやで。
❼困った時はロゼワインかスパークリングワインを合わせる
料理とワインの合わせ方に困ったときは、ロゼワインかスパークリングワインを合わせましょう。
特にスパークリングワインは、どんな料理にもうまく寄り添ってくれます。フランス料理の前菜からデザートまでスパークリングワインだけで通すこともできますし、和食・中華・エスニック、何でも美味しく合わせられます。
たとえベストマリアージュとまではいかなくても、確実に及第点は取れるでしょう。
ただし、スパークリングワインでも難しい食材がひとつだけあります。それが「魚卵」です。特に酸味が穏やかで旨味・コクが強いシャンパンを合わせると、魚卵の生臭さが際立ってしまう場合があるため、注意が必要です。
「キャビア(チョウザメの卵)にはシャンパン」ってイメージだけど、あれは違うの?
キャビアとシャンパンはよく言われるマリアージュではあるけど、僕はあまり美味しいと思わへんわ。ほとんどの人が、贅沢してる気分を「美味しい」と錯覚してるんちゃうかな。
そんなことありませんよ。キャビアに酸を足す(サワークリームと食べる)、もしくは酸の強いシャンパンを合わせることで、キャビアとシャンパンはベストマリアージュになります。どうしても合わせるのが難しい魚卵があるとすれば、数の子ですかね…。
無理にワインを合わせんでええやん、数の子は日本酒でいっとこ。
マリアージュの上級テクニック
マリアージュの基本が分かったところで、ここからは普段ソムリエが意識しているテクニックをご紹介します。ここまでこだわるようになれば、あなたもマリアージュ上級者ですよ!
- 料理の風味と同じ香りをもつワインを合わせる
- 食材の色とワインの色を合わせる
- ソースの色とワインの色を合わせる
- 料理と正反対の味のワインを合わせる
- 料理の質感と同じ質感のワインを合わせる
- 料理の食材(調味料・ソース)をワインで補う
料理の風味と同じ香りをもつワインを合わせる
料理の風味と同じ香りをもつワインを合わせるのは、わりと取り入れやすいテクニックです。同じ風味同士のものを合わせるため、すんなりと味の調和をもたらしてくれます。
ただ、合わせるワインにどのような香りがあるかを把握しておく必要があるため、比較的上級のテクニックと言えるでしょう。
【具体例】(合わせるワインは一例です)
・レモンをたっぷり搾った生牡蠣に、柑橘の香りをもった樽熟成していないシャブリ(※1)
・ハーブたっぷりのカルパッチョに、ハーブのような清涼感をソーヴィニヨン・ブラン
・牛肉のペッパーステーキに、胡椒などスパイシーな香りがあるコート・ロティ(※2)
・ブールブランソース(※2)の魚料理に、バターの風味が強いカリフォルニアのシャルドネ
※1=フランス・ブルゴーニュ地方でシャルドネから造られる辛口白ワイン。レモンのような強い酸味をもつ
※2=フランス・ローヌ地方のシラー主体の赤ワイン。黒胡椒などのスパイシーな香りがある
※3=白ワインとバターを使った濃厚なソース
食材の色とワインの色を合わせる
食材の色とワインの色を合わせるのも、マリアージュのテクニックの一つです。分かりやすいようにお肉を例に挙げます。
お肉には、赤身肉と白身肉があります。赤身肉には、牛肉・羊肉・馬肉・鴨肉・鹿肉・その他のジビエなどがあります。火を通したら茶色っぽくなるお肉ですね。
白身肉とは、火を通した時に白っぽい色になるお肉で、豚肉・鶏肉・仔牛肉などがあります。
食材の色とワインの色を合わせる考え方でいけば、赤身肉には赤ワイン、白身肉には白ワインがよく合います。「お肉に白ワインが合うの?」と思われるかもしれませんが、白身肉は味がわりと淡白なため、コクのあるまろやかな白ワインで合わせればベストマリアージュになる場合があります。
魚料理にも同じことが言えます。魚にも白身と赤身(青魚含む)があります。多くの場合、白身の魚料理には白ワインが合いますが、赤身の魚料理には赤ワインを合わせるほうが美味しい場合があります。
もちろん調理法やソース、付け合せなどによって変わってきますが、食材の色とワインの色を合わせるという考え方も覚えておいて損はないでしょう。
ソースの色とワインの色を合わせる
ソースの色とワインの色を合わせるのも、マリアージュの大事なテクニックです。まずは写真の料理を見てください。
これは「牛肉のグリル ベアルネーズソース」です。ベアルネーズソースとは、澄ましバター・エストラゴン・エシャロット・卵黄・セルフィーユ・酢を煮詰めて作るソースで、お肉のグリル料理と相性が良いソースと言われています。
「肉料理には赤ワイン」の基本で考えれば、この料理には赤ワインを合わせるのが正解です。もちろん赤ワインを合わせても美味しいのですが、ややありきたりなマリアージュであり、ソースの存在を無視した合わせ方と言えます。
この料理については、ソースの色と同じ白ワインを合わせる方がベストマリアージュになります。ベアルネーズソースのバターの旨味と爽やかな酸味に合わせて、また赤身肉の強い味わいとグリルの香ばしさに合わせて、樽熟成させた濃厚な旨味をもつ白ワインが良いでしょう
魚料理でも、赤ワインソースや赤ワイン・トマトなどを使った煮込み料理があります。この場合、白ワインでも美味しいのですが、赤ワインを合わせるほうがベストマリアージュになります。ただし、淡白な魚の味を消してしまわないよう、軽めの赤ワインを合わせるのがおすすめです。
特に、フランス料理のような「ソースで食材を美味しく食べさせる系」の料理の場合、ソースの色とワインの色を合わせる考え方は大事です。
料理の味と正反対のワインを合わせる
ここまで、食材や料理の味・香りと同じ要素をもつワインを合わせるマリアージュを説明してきました。これは、同じ要素で合わせるほうが調和を生みやすいからです。
しかしマリアージュには、料理の味・香りと正反対のワインを合わせるテクニックがあります。例えば、「辛くてスパイシーな料理に甘口ワイン」や「塩辛い食材に甘口ワイン」などです。
料理の味・香りと正反対のワインを合わせるのはギャンブル的やけど、ハマったら最高のマリアージュになるで。色々と試してみてな!
ただ、いくら反対の要素のワインを合わせるとはいえ、「甘いデザートに辛口ワイン」というのはなかなか難しいですよ。
【具体例】
・四川風エビのチリソースに、アルザス産の中甘口のゲヴュルツトラミネール(※1)
・ロックフォール(※2)に、貴腐ワイン(※3)
・フォワグラ料理に、甘口のポートワイン など
※1=ライチのような風味を持つブドウ品種。辛口〜甘口まで様々なタイプがある
※2 =フランス産、羊のミルクが原料の青カビチーズ。塩味が非常に強い
※3=貴腐菌の作用で水分が蒸発したレーズン状のブドウから造られる極甘口ワイン
料理の質感と同じ質感のワインを合わせる
料理の質感と同じ質感のワインを合わせるのは、わりとソムリエが意識しているテクニックです。
料理の質感?
たとえば同じ牛肉料理でも、ステーキと煮込みでは口にしたときの食感が違うやろ?香ばしく焼きあげられたステーキは固い・クリスピーな質感と言えるな。反対に煮込みは柔らかい・トロトロの質感や。
ワインも同様に、それぞれ質感があります。同じ濃厚な赤ワインであっても、「カベルネ・ソーヴィニヨン」のワインはタンニンが固くてややザラっとした固い質感、「メルロー」のワインはシルクのように滑らかで柔らかい質感です。
つまり、ステーキには固い質感のカベルネ・ソーヴィニヨンを、煮込み料理には柔らかい質感のメルローを合わせるということになります。
このように、料理とワインの質感を意識するとマリアージュの幅も広がるため、ぜひ覚えておいてください。
料理によく合う食材(調味料・ソース)をワインで補う
料理によく合う食材をワインで補うテクニックもあります。
たとえば、サーモンマリネやスモークサーモンには、ディルというハーブがよく合います。しかし、サーモンマリネを食べるときに必ずしもディルが添えられているとは限りません。
そんな時は、ディルのような清涼感のあるハーブの香りをもったワインでディルの役割を補います。(冷涼な地域で造られたソーヴィニヨン・ブラン など)
最近ではあまり見かけなくなりましたが、パイナップル入りの酢豚。賛否両論あるかと思いますが、これはパイナップルの甘味が豚肉の旨味を引き立ててくれるという、理にかなった食材の組み合わせです。
パイナップルが入ってない酢豚を食べるときは、パイナップルのようにトロピカルな風味をもった白ワインを合わせてみてください。パイナップルの代わりに、同じような風味をもつワインが豚肉の旨味をより強く感じさせてくれるでしょう。(温暖な地域で造られたシャルドネ など)
【その他の例】
・通常の牛肉ステーキに、黒胡椒の風味が強いシラーの赤ワイン(ペッパーステーキのイメージ)
・鹿肉のローストに、イタリアのアマローネ(※)
※=イタリア・ヴェネト州で干しぶどうから造られる辛口の赤ワイン。ジャムのように濃縮したベリーの風味がある。鹿肉にはベリーのソースが良く合うため、アマローネにソースの代わりをさせる合わせ方。
まとめ
料理とワインのマリアージュの基本から、ソムリエが使う上級テクニックまで解説してきました。ここで紹介したのは、あくまでほんの一例です。
ワインと料理の合わせ方に基本やセオリーはありますが、味覚は人それぞれ異なるためマリアージュに正解はありません。基本やセオリーだけにとらわれることなく、自由な発想でマリアージュを楽しんでいただきいと思います。
料理とワインのマリアージュを経験すると、とても幸せな気分になれます。ぜひ色々と試してみて、自分だけの最高のマリアージュを見つけてみてください。