京都・祇園フレンチ「祇をん 尚」ワインメーカーズディナー【テヌータ・ルーチェ】前編

先輩ソムリエの尚一郎さんが経営する、京都・祇園フレンチの名店「祇をん 尚」でワインメーカーズディナーが開催されるとのことで、「空席が出た」と急遽お声がかかり行ってきました。
ワインメーカーズディナーとは、特定のワインメーカーの代表やマーケティング責任者を招き、自社ワインの魅力を語ってもらいながら楽しむディナーです。
私がイタリアワインの中で最も大好きな「テヌータ・ルーチェ」のメーカーズディナーだったので、(何が何でも行かねば!)との思いで京都へ向かいました。
テヌータ・ルーチェについて
テヌータ・ルーチェは、イタリアワインの中でもトップクラスの品質と知名度を誇るワイナリーで、フラッグシップワイン「ルーチェ」はスーパータスカン(スーパートスカーナ)と呼ばれています。
ルーチェを語る前に、まずスーパータスカン(スーパートスカーナ)と言われるワインについて簡単に触れておきましょう。
スーパータスカン(スーパートスカーナ)とは?
世界のワイン産地では、それぞれ「ワイン法」が定められています。例えば、「この地域ではこのブドウでしかワインを造ってはならない」、「このワイン名を名乗るためには、決まったブドウ・決まった製法で造らなければならない」など、厳しく定められています。
イタリアのワイン法は1963年に制定されました。イタリアワイン法のコンセプトは「イタリアワインの独自性を大切にする」ということ。イタリア固有の土着品種を使ったワインが上位に格付けされ、外来品種を使用したワインは最も格下のテーブルワインに格付けされていました。
しかし、外来品種にも素晴らしいワインを生むブドウはたくさんあります。例えば、フランス・ボルドー地方のカベルネ・ソーヴィニヨンやメルローなどですね。
一部の生産者たちが、ワイン法にとらわれずに自由にワインを造りたいとう思いから、これらの外来品種を用いてトスカナーナ地方・ボルゲリ地区でワイン造りを始めました。

彼らのワインは、ワイン法上はテーブルワインという格下カテゴリにもかかわらず、イタリアの上級格付けワインを超えるような味わいでした。「トスカーナの規定を超えたワイン」という意味でスーパータスカン(スーパートスカーナ)と呼ばれるようになり、1968年リリースの「サッシカイア」を皮切りに、1970年代以降に次々と誕生しました。
そして、スーパータスカンは瞬く間に世界中のワイン愛好家から注目の的となり、人気を博すようになりました。
スーパータスカンの特徴は、若いうちでも十分に楽しめるうえに熟成のポテンシャルも高いことです。それもあってか、近年また注目されるようになっています。
そして、今回のテヌータ・ルーチェが手がけるワイン「ルーチェ」もまた、スーパー・タスカンです。
テヌータ・ルーチェ
テヌータ・ルーチェの話に戻ります。
テヌータ・ルーチェは1995年、イタリア人のマルケージ・フレスコバルディと、アメリカ人のロバート・モンダヴィのジョイントベンチャーとして生まれました(企業名「ルーチェ・デッラ・ヴィーテ」)。スーパータスカンの中ではわりと後発組です。
フレスコバルディはトスカーナの名門ワイナリー。ロバート・モンダヴィはカリフォルニアワインの父と呼ばれ、あの「オーパス・ワン」を造った人物として有名です。
イタリアワイン界とアメリカワイン界、それぞれの超実力者がタッグを組んで生み出したのが「テヌータ・ルーチェ」というブランドであり、「ルーチェ」というワインなのです。
VRを見ながらの贅沢なアペリティフ
さて、「祇をん 尚」に到着すると、また一回り大きくなったであろう巨漢ソムリエ尚一郎さんが、破裂しそうなパンパンの丸顔で出迎えてくれました。いつもの光景ですね。
アペリティフ(食前酒)の時間があるとのことで、まず1階のカウンターではなく2階の個室に案内されました。
今回のワインメーカーズディナーは、テヌータ・ルーチェの輸入元「日本リカー」さんの協賛で開催されていたため、食前酒には同じく日本リカーさん取り扱いの「シャルル・エドシック・ブラン・ド・ブラン」のマグナムボトルが用意されていました。

【シャルル・エドシック・ブラン・ド・ブラン】
・生産者名:シャルル・エドシック
・生産地:シャンパーニュ地方
・ブドウ品種:シャルドネ100%
・生産年:NV(ノンヴィンテージ)
・甘辛度:辛口
シャルル・エドシックは英国王室御用達のシャンパンメーカーで、こちらのブラン・ド・ブランは2023年にANAのファーストクラスで提供されるワインにも選ばれた素晴らしいシャンパンです。
エドシック一家の「シャルル=カミーユ」が若干29歳の時(1851年)に設立したシャルル・エドシック。カミーユは粋なジェントルマンとして有名だったようで、このシャンパンはダンディーな男のためのシャンパンとも言われています。
日本リカーのスタッフ・通訳の方々に挨拶をすませ、本日のワインメーカーであるアルベルトさんと共にシャンパンをいただきます。
アルベルトさんは、「テヌータ・ルーチェ」を有するフレスコバルディ社のアジアパシフィックエリア輸出マネージャーで、ルーチェのプロモーションで来日しているとのことでした。

せっかくのご縁なので、アルベルトさんのこれまでの人生を少しだけインタビューしてみました。
イタリアの人口100人ほどの小さな村で生まれ、幼い頃から絶対に村を出て世界で仕事をすると決めていたようです。イタリアの大学を出てからは、コンサルティング業で世界中を飛び回っていたそうですが、15年ほど前にワインビジネス業界に飛び込み、今はフレスコバルディ社のワインのプロモーションで香港を中心にアジア中を飛び回っているとのことでした。
あなたの仕事のことも教えてくださいと言ってくれたのですが、生まれに関するドラマティックなエピソードもなければ、誇れるような職歴もない私は、とりあえず満面の笑みでシャンパンを飲み干しておきました。
アルベルトさんと私は同い年。かたや香港在住で世界を飛び回るイケメンマネージャー。かたや神戸の田舎にこもって近所の酒場を飛び回るオッサン。神様はどれだけ残酷なんですか。いえ、そもそも神様なんていないのでしょう。
さて、上の写真にも写っているように、このアペリティフの時間をVRと共に楽しむ演出がありました。
VRで見られたのは、テヌータ・ルーチェのブドウ畑や醸造所の映像です。まるでテヌータ・ルーチェを訪れたかのような臨場感を味わいながらシャンパンを飲む、なんとも贅沢な時間でした。ちなみにソムリエ尚一郎さんも、仕事を忘れてVR見てました。

しばらくしてVRに満足したのか、シャルル・カミーユ顔負けのダンディズム尚一郎さんが「そろそろ階下へ」と案内してくれ、「祇をん 尚」1階のカウンター席に移動。
いよいよ「テヌータ・ルーチェ」ワインメーカーズディナーのスタートです。
チチニス 2022(アテムス)
シャンパンのあまりの美味しさについつい飲みすぎてしまい、すでに結構酔っていたのですが、本番はこれからです。
一般的なワインメーカーズディナーは、1種類のワインが提供されるごとに、そのワインの特徴や魅力をメーカーさんが語ってくれるスタイルです。メーカーさんの話と共にまずワインを味わい、その後に出てきた料理との相性を楽しみます。
1本目のワインは、チチニス・コッリオ 2022(アテムス)です。

【チチニス 2022(アテムス)】
・生産者:アテムス
・生産地:イタリア フリウリ=ヴェネツィア・ジューリア州
・原産地呼称:D.O.Cコッリオ
・ブドウ品種:ソーヴィニヨン・ブラン
・アルコール度数:13.5%
・甘辛度:辛口
<味わいの特徴>
黄色い花や熟したグレープフルーツ、ライムの酸味にセージなどのハーブの香り。後味には少し生姜や白胡椒、新樽由来のヴァニラなどスパイスの香りが感じられる。ソーヴィニヨン・ブランにしては厚みがあり、ボリューム感のある味わい。
アテムスは、イタリア北東部、フリウリ=ヴェネツィア・ジューリア州の名門ワイナリーです。2000年以降、今回の「テヌータ・ルーチェ」を有するフレスコバルディ社の傘下に入っており、アルベルトさんもイチオシの白ワインとのことでした。
チチニスはアテムスのフラッグシップ的ワインで、専門家からも非常に高い評価を受けています。私も初めて飲んだのですが、確かにこれは美味い!ちなみに「チチニス」は畑の名前ですね。
そして、「祇をん 尚」シェフの合わせたお料理はこちら。

京都産シャモ(軍鶏)のテリーヌです。未熟ブドウのジュースとマスカットのゼリー、生のかぼちゃのサラダが添えてあります。
ソーヴィニヨン・ブランのワインは魚介類と合わせることが多いのですが、このチチニスはコク・ボリューム感があるため、白身のお肉料理とも非常によく合うと思います。特に、添えてあるマスカットのゼリーと一緒に食べることで、ワインの酸味と合わさってより素晴らしいマリアージュ(相性)になりました。
アルベルトさんによると、イタリアでチチニスと合わせるなら「タコのサラダ」がおすすめとのことでした。確かに、イタリアンパセリたっぷりのタコのサラダと合わせるのは、とても美味しそうです!
「日本料理なら何を合わせますか?」と聞かれたので、「焼き鳥(モモ肉・塩)にたっぷりレモンを絞って山椒をかけたものや、うなぎの白焼きとワサビなんかどうでしょう?」と、ソムリエ尚一郎さんのお株を奪う勢いで自信満々に語ってみましたが、アルベルトさんにハマっていたかは不明です。
最初のワインから美味しすぎて、この後のワイン・料理への期待が膨らみます。

トレベス 2021(アテムス)
2本目のワインは、同じくアテムスの「トレベス 2021」です。

【トレベス 2021(アテムス)】
・生産者:アテムス
・生産地:イタリア フリウリ=ヴェネツィア・ジューリア州
・原産地呼称:D.O.Cコッリオ
・ブドウ品種:リボッラ・ジャッラ
・アルコール度数:13%
・甘辛度:辛口
<味わいの特徴>
白桃や黄色い花の香り、シトラスフルーツ系の生き生きとした酸味。後味にはほのかにアーモンドのような苦味も。チチニスに比べて個性は控えめだが、骨太でとてもバランスが良い味わい。個人的には5〜6年熟成させて飲んでみたい。
こちらはイタリア土着品種「リボッラ・ジャッラ」というブドウから造られたワインです。ワインにしては珍しく、アカシア樽で一部のワインを発酵・熟成しているとのことでした。通常、ワインの発酵・熟成に使われるのはオーク樽が多いため、アカシア樽とは非常に興味深いです。
アルベルトさん曰く、「オーク樽ほど樽の風味を強くつけることなく、樽熟成のメリットをワインに与えることができる」みたいな感じでした。酔っててうろ覚えなのですが、おそらくこんな解説だったと思います、たぶん、、、すみません。
アルベルトさんは、トレベスは若いうちに飲んで美味しいワインだと言っていましたが、個人的には5〜6年熟成させて飲んでみたいワインでしたね。
さて、「祇をん 尚」のシェフが合わせたお料理はこちらです。
京都 丹後産 サワラの白ワインソース。
皮目をパリッと焼いたサワラの上にディル(ハーブの一種)、白ワインソースにはヴェルモット(フレーヴァードワイン)が使用されていました。
仕上げにシェフがカボスの皮を擦ってくれ、一段と爽やかな香りになって食欲がそそられます。
トレベスは少しクリーミーな質感があるワインだったので、バター風味の白ワインソースとも非常によくマッチしていました。個人的には1本目のワイン「チチニス」との相性の方が良く感じました。

まだワイン2種類、食後酒1種類が残っているというのに、かなり良い気分になってきました。
いよいよ後半は本日メインのワイン「ルーチェ」が登場します。
後編へ続きます
