【酒精強化ワイン】シェリーは海賊の酒?「ワンピース フィルムZ」に登場したシェリーがついに判明!

大人気漫画「ワンピース」の映画「ワンピース フィルムZ」内で何度も登場する、あるお酒。あのお酒が何なのか、気になっていた方も多いのではないでしょうか。その正体は、スペインで造られるワイン「シェリー」です。
本記事では、シェリーのプロフェッショナルである筆者が、映画内で登場したシェリーの銘柄まで考察し、海賊とシェリーの関係も解説しています。
シェリーとはどんなワイン?
シェリーとは、スペインのアンダルシア地方で造られる酒精強化ワイン(ブランデーなどを加えてアルコール度数を高めたワイン)です。辛口タイプの代表「フィノ」や「オロロソ」をはじめ、中甘口・極甘口など10種類のタイプがあります。
普通のワインにはない独特の風味があり、保存性に優れているため、開栓後も長期にわたって味が落ちないという特徴があります。シェリーについてソムリエ並みに詳しくなりたい方は、こちらの記事をご覧ください。

映画「ワンピース フィルムZ」にシェリーが登場
実はこのシェリー、あの人気漫画の映画「ワンピース フィルムZ」にも登場しています。(以下、ややネタバレの内容を含みますので、読みたくない方はこの項を飛ばしてください)
「ワンピース フィルムZ」でシェリーが登場するシーン
映画「ワンピース フィルムZ」でシェリーが登場するのは、元海軍で兵士たちの訓練を担当していたゼファー(=ゼット)が、同じく元海軍大将「青キジ」のクザンと、死んでいった海兵たちの墓の前で会うシーンです。

クザンが持っているワインボトルには、JEREZ(ヘレス)とあります。よく見ると、ボトルの下の方には小さくsherryと書かれてありますね。これらのことから、このワインがシェリーであることが分かります。
実は、スペインの酒精強化ワイン「シェリー(sherry)」は英語名で、正式にはスペイン語でヘレス(JEREZ)と言います。ヘレス(JEREZ)という名は、シェリーが「Jerez de la Fronetera(ヘレス・デ・ラ・フロンテラ)」という街を中心に造られていることが由来です。
クザンが、再会の土産としてシェリーのボトルを放り投げ、それを受け取ったゼファーとこんな会話をします。
クザン「好きだったでしょ、アンタ」
ゼファー「あぁ、一番かっこいい酒はこれだ。」
クザン「おれも、アンタの真似してよく飲みましたよ。かっこいい男になりたくてねぇ。」
ゼファー「アタマの固い老人を説教に来たのか?悪いが、止まらねぇぞ…俺は!」
クザン「死ぬ…つもりか?」
二人は海軍での先生と教え子の関係。戦ってでも尊敬する師を止めたいクザンの悲しい決意と、己の信念を貫き通すゼファーの覚悟が相まみえるこのシーン。
シビれましたね。
そしてこの2人のシーンは、映画のクライマックスにおけるクザンのある「粋な行動」により、さらに味わい深いシーンとなるのですが…それは映画を見てのお楽しみですね!
ラストシーンで、シェリーを片手にクザンが言ったセリフに涙が止まりません。
ゼファーが飲んでいたシェリーの銘柄は?
ところで、この映画内でゼファーが愛飲していたシェリーの銘柄は、いったい何だったのでしょうか。ルフィとの最終決戦を前にして飲んでいるところを見ても、ゼファーがこのシェリーを相当気に入っていたことが分かります。
まず、ゼファーが飲んでいたシェリーは、辛口の「フィノ」という種類だったのではないかと思われます。ボトルの色が緑で、中の液体が透明っぽく見えるためです。
私は、おそらく制作陣はフィノの代表銘柄である「TIO PEPE(ティオ・ぺぺ)」をモデルにしたのではないかと推測しています。

ゼファーが飲んでいたシェリーについては、Sherry Museum館長の中瀬さんという方が、とても面白い考察をされています。(中瀬さんの考察記事はこちら)。
中瀬さんは、私など足元にも及ばないほどシェリーに造詣が深い方なので、この考察も大変興味深く読ませていただきました。
ワンピースの漫画でゼファーの愛したシェリーが判明!?

ワンピースのコミックの方でも、1081話でクザンがシェリーを飲むシーンが描かれています。最初の文字が少し隠れていますが、どうやらTIO PEPEという文字が書いてありますね。ボトルデザインも「TIO PEPE(ティオ・ぺぺ)」そのものっぽいです。
これにより、クザンがゼファーに憧れて飲んでいたシェリー、つまり映画「フィルムZ」でゼファーが飲んでいたシェリーが「TIO PEPE(ティオ・ぺぺ)」であることがほぼ確定したのではないでしょうか。
おそらく、ボトル全体をカラーで描かなければならなかった映画の方では、著作権等の関係でTIO PEPEのボトルデザインを使わなかったのでは?と私は推測しています。
ちなみに、クザンのモデルは俳優の松田優作さんだと言われていますね。実は、松田勇作さんが好んで飲んでいたお酒も「TIO PEPE(ティオ・ぺぺ)」だそうです。
ワンピース作者の尾田栄一郎先生なら、このあたりの背景もちゃんと漫画に反映するでしょうから、、、、
松田優作さんが愛したシェリー「ティオ・ぺぺ」が、クザンが飲む酒として作中で描かれている
⇨クザンは師であるゼファーに憧れてシェリーを飲むようになった
⇨ゼファーが愛飲していたシェリーはティオ・ぺぺ
で、ほぼ間違いないでしょう。
かっこいい男になりたい方は、ぜひ「TIO PEPE(ティオ・ぺぺ)」を飲んでみてはいかがでしょうか。私もハードボイルドダンディを目指して、密かに愛飲しています^^
シェリーと海賊の関係
さて、ワンピースの映画やコミックでは海軍の人たちが好んで飲んでいるシェリーですが、本来シェリーは海賊と関係が深いワインです。
シェリーが継続的に海を渡って交易されるようになったのは、14世紀前半と言われています。1337年〜1453年に起きたイギリスとフランスの100年戦争により、フランスワインの輸入を禁止されたイギリスのワイン商がスペインでシェリーを発見したのです。
シェリーがイギリスで人気を博したことで取引が盛んになり、スペインのシェリー産業は飛躍的に発展したと言われています。
最初に世界一周したワインはシェリー
大航海時代に入り、コロンブスがアメリカ大陸を発見してからは、シェリーを積んだ貿易船が大西洋を往来するようになりました。
世界一周を目指すマゼランも、大量のシェリーを船に積んで航海をしたと言われています。世界で初めて世界一周を成し遂げたのはマゼランなので、初めて世界一周したワインはシェリーだと考えられています。
海賊はシェリーが大好き?

海賊が飲む酒といえばラム酒が思い浮かびますが、実はシェリーも海賊が好んで飲んでいたお酒だと言われています。
今みたいに保冷技術が発達していない時代ですから、海賊は船に飲料水を積んでおくことができません。そこで海賊は、保存性に優れたシェリー・ポート・マデイラなどの酒精強化ワインを貿易船から略奪しては、水分代わりに飲んでいたようです。
シェリーで有名な海賊は、イギリスの海賊「フランシス・ドレイク」でしょう。1587年、フランシス・ドレイクが率いたイギリスの艦隊(海賊)がカディス湾を襲撃し、スペイン船から約3000樽のシェリーを略奪してロンドンに持ち帰ったとされています。
ちなみに、この時代に活躍した海賊は、漫画のワンピースで見られるような「自由やお宝を求めて冒険している」海賊ではありません。この時代に活躍していた海賊は、「シードッグ」と呼ばれるエリザベス女王公認の私掠船(しりゃくせん)です。
【私掠船(しりゃくせん)とは】
戦時中に国家の私掠免許(私掠特許状)を得て、敵国の船を攻撃・拿捕(だほ)することを公認された民間の船。活動下の国においては合法の海賊であり、一般の海賊が略奪行為を行なうのとは全く異なります。
私掠船の目的は、主に国家間の戦争において自国の海軍力を補完し、敵国の通商路を妨害することや、略奪した積荷で自国の経済を補強することでした。特に、当時は海軍力・国力ともに不足していたイギリスが、隆盛を極めていたスペインやポルトガルに対抗する手段として活用したことで有名です。
拿捕した船や略奪した積み荷は戦利品として認められ、その一部は船員や船主に報酬として与えられていました。そのため、多くの民間人が私掠船の活動に参加したと言われています。
ちなみに、この私掠船をモチーフにしているのが、ワンピースに出てくる政府公認の海賊「王下七武海」です。
約3000樽のシェリーをスペイン船から奪ったフランシス・ドレイクも、私掠船「シードッグ」の一員でした。
ドレイクはエリザベス女王の出資を受けて世界一周を成し遂げ、その航海中の海賊行為で約60万ポンドをイギリスに持ち帰ったと言われています。当時のイギリスの国家予算が20万ポンドほどだったことを考えれば、ドレークがどれほど優秀かつ恐ろしい海賊だったのかお分かりいただけるのではないでしょうか。
まとめ
大人気漫画「ワンピース」にも登場するほど、シェリーは魅力的なワインです。しかし、実際に飲んだことがあるという方はまだまだ少ないのではないでしょうか。
男の中の男ゼファーが愛し、そのゼファーに憧れてクザンが今なお愛飲しているシェリー。気になる方は、シェリーの中で最も有名な銘柄「Tio Pepe(ティオ・ぺぺ)」から、まず飲んでみるのはいかがでしょうか。

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