お友達から私のバースデー・ヴィンテージ(生まれた年)の古いワインをもらったんです。すごく嬉しいんですけど、飲めるか心配で…。
60年前のワインか、それは飲めるか心配やな。
30年前のワインよ!
自分が生まれた年のワインをもらうなんて、素敵ですね!では今回は、古いワインが飲めるかどうか、古いワインの価値や選び方、飲むときの注意点を解説しますね!
古いワインは飲めるか
最初に、本記事では「古いワイン=20年以上前のワイン」と定義します。
結論から言いますと、古いワインは飲めます。アルコール飲料であるワインには賞味期限がなく、腐ることがないからです。(詳しくはワインの賞味期限についての記事をご覧ください)
たとえ50年以上前に造られたワインであっても、飲むことは可能です。ただし、これは単に「飲める・飲めない」の話であって、「美味しく飲めるか」になると話は変わってきます。
特にワインは、保存状態次第では劣化してしまう飲み物です。悪い状態で長期保存されてきた古いワインであれば、美味しくは飲めないでしょう。
古いワイン=美味しいワインではない
では、仮に良好な環境で保存されてきた古いワインであれば、すべて美味しく飲めるのでしょうか。
答えは「NO」です。
ワインが熟成する飲み物であることは、一般的に知られていることでしょう。それゆえ、「ワインは古ければ古いほど美味しい」と思われている傾向がありますが、全てのワインが「古い=美味しい」わけではありません。
理由は以下の2点です。
- ワインごとに熟成のポテンシャルが異なる
- ワインごとに熟成のピークがある
ワインごとに熟成ポテンシャルが異なる
ワインには、それぞれ熟成ポテンシャルがあります。熟成ポテンシャルとは、熟成によって味が向上する可能性のことです。
ワインには、2〜3年しか熟成しないものもあれば、50年以上の熟成で味が向上していくものもあります。この熟成ポテンシャルは、ある程度ワインの「生まれ」で決まってしまいます。
良質な土壌で栽培された良質なブドウだけを厳選し、優良ワインメーカーが醸造した高品質ワインであれば、熟成のポテンシャルは非常に高いと言えます。反対に、大量生産のリーズナブルなワインなどは、熟成ポテンシャルが低くなります。
また、ブドウ品種によっても熟成ポテンシャルは異なります。例えば赤ワインであれば、カベルネ・ソーヴィニヨンやメルロー、ネッビオーロなどは熟成ポテンシャルが高いブドウ品種です。一方、有名なボージョレー・ヌーヴォーのブドウ品種であるガメイなどは、熟成による味の向上はあまり期待できません。
つまり、熟成ポテンシャルが高いブドウ品種を用いて良い環境で造られた高級ワインであれば、古いワインでも美味しい可能性が高いです、
反対に、日常的に飲むようなリーズナブルなワインや、熟成ポテンシャルが低いブドウ品種のワインは、古いワインになると美味しくないで。若いうちが美味しいように造られてるからな。
ワインごとに熟成のピークがある
古いワインが全て美味しいわけではない理由の2つ目が、ワインごとに熟成のピークがある点です。
30年以上も熟成するとされている、ボルドーの1級格付け「シャトー・ラトゥール」というワインを例に考えて見ましょう。
シャトー・ラトゥールが30年以上熟成するとはいえ、最も美味しい時期が熟成30年目とは限りません。もしかしたら、50年目にピークを迎える可能性だってあるわけです。熟成50年目にピークを迎えるシャトー・ラトゥールを20年目に飲んでも、真の美味しさは味わえないでしょう。
反対に、実は熟成20年目に美味しさのピークを迎えていて、その後は緩やかに下降している可能性もあるのです。熟成のピークを過ぎたワインは、枯れた感じの味わいになっていきます。そのシャトー・ラトゥールを、もし熟成30年目に開けて飲んだとしたら、残念ながら美味しいとは感じないかもしれません。
また、同じワインであっても、ブドウの収穫年によって熟成のピークは変わってきます。先ほどのシャトー・ラトゥールも、ブドウの出来がそれほど良くない年のものであれば、10年ちょっとで熟成のピークを迎えたりすることもあり得ます。
つまり、古いワインが美味しいかどうかは、熟成のピークあたりのタイミングで飲めるかどうかにかかっているということですね。ある意味、運次第ですよね。
ぴのこさんの言う通り、古いワインは開けてみるまで美味しいかどうか分かりません。それが古いワインの魅力でもあるんですけどね。
古いワインはなぜ価値が高い?
「古いワイン=必ずしも美味しいワインではない」ということは分かったんですけど、ワインショップに行くと古いワインの方が高価なものが多い気がします。美味しさに関係なく、古いワインの方が価値が高いということですか?
熟成ポテンシャルが高いワインの場合は、古いワインの方が高価です。その理由は以下です。
【古いワインの方が価値が高い理由は?】
・熟成期間の保管コストがかかっているため
・希少性が高いため
ワインを熟成させるには、きちんとした環境で長年保存しておく必要があります。そこにはそれなりのコストがかかっているため、価格に上乗せされています。
また、一つのワイン銘柄が1年間に生産される本数は限られています。その限られたワインが年々売れていくため、古いワインになるほど現存本数が少なくなっており、希少性が高くなります。
以上の理由から、古いワインは高価なものが多いのです。
古いワインの選び方
ワイン好きの友人・知人や家族に、古いワインをプレゼントしたいと思うこともあるでしょう。その場合、どのように古いワインを選べば良いでしょうか。
古いワインを購入するときは現物を見る
まず、できる限り現物を見て選ぶことが大切です。ネットショップで買う場合でも、現状のボトル写真が掲載されているお店や、希望すれば見せてくれるようなお店で買うべきです。古いワインは保存状態が命なので、現物を見て保存状態が悪かったと推測されるものは避けなければいけません。
現物を見て確認すべきポイントは、主に以下の2点です。
- 液漏れの有無
- 不自然なほど目減りしていないか
ワインのキャップシール周りやエチケット(ラベル)に、ワインの液漏れ・吹きこぼれによる染みなどがないかチェックしましょう。ワインの液漏れ・吹きこぼれの形跡がある場合、そのワインが高温の環境下で保存されていた可能性が高いです。
高温によってボトル内の温度が上昇すると、液体や空気が膨張してコルクが押し上げられます。また、温度が上がることでワイン内に残っていた酵母が再発酵を起こし、二酸化炭素を発生させてコルクを押し上げることもあります。そして、コルクが押し上げられる際に、コルクの隙間からワインが漏れ出してしまうのです。
また、ワインの量が不自然に目減りしていないかもチェックしましょう。ワインのコルクはわずかな空気を通すため、古いワインであれば多少は蒸発して目減りします。しかし、ボトルの肩部分より下まで目減りしていることはまずありません。
20〜30年ほどの熟成であれば、どれだけ目減りしても首部分の少し下くらいまでです。極端に目減りしている場合は、空気を通しすぎて蒸発している=ワインが酸化している可能性があります。また、液漏れや吹きこぼれで目減りしている可能性もあるでしょう。
いずれにせよ、極端に目減りしているワインは劣化の可能性が高いため、購入には慎重になった方が良いです。
熟成ポテンシャルが高いワインを選ぶ
美味しい古いワインとは、「熟成して味わいが向上する可能性(=熟成ポテンシャル)が高いワイン」であることは先述の通りです。古いワインを選ぶ時は、この熟成ポテンシャルが高いワインを選ぶ必要があります。
では、熟成ポテンシャルが高いワインにはどのようなものがあるでしょうか。一例を挙げてみます。
ワイン初心者の私には、ちょっと専門的な用語が多くて難しいです…。
もう少し簡単に言い換えましょう。赤ワインならカベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、ピノ・ノワール、シラー、テンプラニーリョ、ネッビオーロ、サンジョヴェーゼなどのブドウ品種で、まず古いワインを探しましょう。白ワインならシャルドネが良いですね。
で、そのワインの若い年代のやつがいくらで売られてるか調べてみるんや。現在15,000円以上で売られてるようやったら、そのワインは高品質=熟成ポテンシャルが高いと判断してOKや。ほな、古いワインも美味しい可能性が高いってことやな!
当たり年のワインを選ぶ
一般的には、古いワインを選ぶときは当たり年(=ブドウの出来がとても良かった年)のワインを選ぶのが良いとされています。良いブドウから造られたワインは、特に長期熟成に向いているためです。
そのワインが造られている国(地方)の当たり年は、ネットで調べればすぐに情報が出てきます。当たり年のものを選べば、古いワインでも美味しい可能性は高いでしょう。
個人的には、古いワインを選ぶときは当たり年かどうかをあまり気にしなくて良いと思っています。当たり年のワインでなくても、すごく良い熟成をして美味しくなっているのを何度も経験してきました。もちろんピークを過ぎてしまっていることもありましたが、それも含めて古いワインを選ぶ楽しさではないでしょうか。
当たり年の古いワインって、値段がめちゃくちゃ高いからな。同じワインでも当たり年じゃなければ半額ほどで買えることもあるから、あえてそういう掘り出し物を探すのも面白いで!
古いワインを飲むときの注意点
古いワインを飲むときは、いくつか注意点があります。
- 購入してから1週間〜10日間は立てて保存しておく
- キャップシールは全て剥く
- コルクが脆く(もろく)なっている可能性があるので注意
- デキャンタージュする
- 必要以上にスワリングしない
①購入してから1週間〜10日間ほど立てて保存する
古いワインを購入してすぐに飲むのは避けるべきです。運搬途中の振動などでワインがストレスを受け、本来の味わいではなくなっているためです。
ワインを落ち着かせて本来の味わいに戻すために、1週間〜10日間は休ませましょう。その際、ボトルは立てておくようにしてください。
赤ワインの場合、古いワインには澱(おり)が発生しています。運搬中に澱がワイン中にフワフワ舞ってしまっている可能性があるため、ボトルを立てておくことで澱を瓶底に沈めましょう。
澱って何?
赤ワインの渋味成分「タンニン」と、色素成分「アントシアニン」のポリフェノール、たんぱく質などが結合して、ボトル内で結晶化したものや。古いワインは、長い熟成期間中に澱が発生してるものが多いな。
古い白ワインにも、ブドウの酸味成分「酒石酸」と「カリウム」などミネラル成分が結合して結晶化した酒石が発生することがあります。赤・白いずれにせよ、立てて保存しておく方が良いですね。
1週間〜10日間ほど立てて保存した後、すぐに飲まないのであればボトルを斜め(瓶口が上)にして保存しておきましょう。コルクが乾かないよう、コルクにワインの液面が触れるようにして保存することが大切です。
①キャップシールを全て剥く
古いワインを開けるときは、ワインのコルク部分を覆っているキャップシールを全て剥くようにしましょう。
通常のワインの場合はコルクの上部だけが露出すれば良いので、キャップシールも上部だけを切ります。しかし、古いワインの場合は、コルクの長さや状態が見えたほうが開けやすいため、全て剥いてコルクが見えるようにします。
③コルクが脆く(もろく)なっている可能性があるので注意
古いワインはコルクが脆く(もろく)なっている可能性があるため、注意が必要です。ワインオープナーを刺したとたん、ボロボロと崩れてしまったり、コルクごとワインの中に落ちてしまうこともあります。
中には「リコルク」と言って、古いコルクを新しいものに変えているワインもありますが、これはワイナリーが自社で長期間熟成させていた蔵出しワインなどにしか見られません。一旦市場に出回った古いワインはリコルクされていないため、高い確率でコルクが脆くなっています。
古いワインを開けるときは、慎重かつ丁寧にゆっくりと開けるようにしましょう。
古いワインの開け方を詳しく知りたい方は、こちらの記事を読んでください(新記事作成予定)
④デキャンタージュする
古いワインは、何十年間も空気に触れず眠っていた状態です。そのようなワインは、開栓しても香りや味わいがまだ閉じています。そこで、ワインをゆっくり目覚めさせてあげる必要があります。
そのための作業が、デキャンタージュです。デキャンタージュとは、ワインを別の容器(デキャンタ)に移し替える作業のことで、ゆっくりと空気に触れさせて味わいと香りを開かせるために行います。
また、上述の通りワインには澱は発生しています。デキャンタージュには、澱とワインを分離させる目的もあります。
デキャンタージュするときは、瓶底に溜まった澱の動きが見えやすいように、ボトルのネック部分に下から光を当てて行います。ボトル内のワインが少なくなってくると、ネック部分まで澱が流れてきますので、そのタイミングでデキャンタージュを終了します。
ただし、デキャンタージュも必要に応じて行う必要があります。
古いワインは香りも味も非常に繊細です。ピークをやや過ぎた古いワインをデキャンタージュしてしまうと、過剰に空気に触れて香りや味が損なわれてしまうことがあるため、注意が必要です。
デキャンタージュの方法については、こちらの記事をご覧ください(新記事作成予定)
⑤必要以上にスワリングしない
ワインを空気に触れさせるために、グラスをくるくる回す行為をスワリングと言います。古いワインをグラスに注いだ後は、必要以上にスワリングしないようにしましょう。
先ほど述べたように、古いワインは香りも味わいも繊細です。過剰にスワリングして空気に触れさせてしまうと、本来の風味が損なわれてしまう恐れがあります。
ましてやデキャンタージュしている場合は、すでに空気に触れてワインが目覚めようとしていますので、そのままゆっくりと香りや味が開くのを待ってあげてください。
スワリングは、ワインにストレスを与えて強制的に香りや味わいを開かせる手段や。ソムリエが短時間でワインの風味を感じ取るためにやることやから、1本のワインをゆっくり時間をかけて飲むときは必要ないで。特に古いワインの場合はやらん方がええな。
私もグラスをくるくる回すのがクセになってるから、古いワインを飲むときは注意しないといけないわね。
まとめ
古いワインは飲めますが、美味しいかどうかは別です。たとえ熟成ポテンシャルが高いワインであっても飲むタイミングによっては当たり外れがあるため、美味しい古いワインに出会うには運も必要です。
しかし、ソムリエとして皆さんに伝えたいことは、何十年も前に造られたワインを飲む経験には、「美味しいかどうか」を超越した感動があるということです。
今回の内容をふまえて、ぜひ古いワインを一度飲んでみてください。いきなり20年〜30年熟成の古いワインはハードルが高いかと思いますので、まずは10年熟成くらいのものから試してみてください。きっと忘れられない経験になるはずです。