久しぶりの休みは京都へ
お酒の誘いをすべて断って仕事をしていた私ですが、ついに禁断症状が出てしまい、友人であるBar経営者のKj夫婦を誘って京都へ飲みに行くことにしました。
4月にせっかく京都へ行くのだから、「都をどり」を観ようとなり、知り合いの芸妓さんにチケットを手配していただいて行ってきました。
Kjは三宮で、海賊とラムがテーマのBar「Matey Log」を経営しています。破天荒で自由奔放、友達思いの情に厚い性格は、まさに海賊船の船長といった感じです。
一方のKj嫁は品があるお嬢様といった雰囲気なのですが、海賊の嫁さんだけあってしっかり者です。漫画「ONE PIECE」のナミみたいな女性と言えば、イメージしていただけるのではないでしょうか。
Kjは歌舞伎役者の尾上松也似で超イケメン、Kj嫁はPerfumeのっち似の美人さんという美男美女カップル。そこにゴリラ(私)が加わり、なんともアンバランスな3人での京都旅となりました。
都をどりの起源
都をどりは、舞妓さんや芸妓さんの舞が観られる京都の春の風物詩で、毎年4月に公演されます。
明治5年の京都博覧会における「附博覧」として開催されたのが起源と言われています。京都博覧会は、東京遷都で元気がなくなった京の町を活気づける目的で、明治4年から開催されていました。
都をどりは約1時間の公演で、全八景で構成されています。「明転」の手法(一度も幕を下ろすことなく、舞台が明るいまま次々と場面を転換する手法)で展開されるのが特徴です。
まずは舞妓さんが会場左右の花道から登場し、美しい舞いを披露します。そこから四季折々の衣装をまとった芸妓さんや舞妓さんが次々と現れ、梅の春→夏→紅葉の秋→冬の雪景色へと転換していきます。
中には古典文学などをテーマにしたストーリー性のある景もあり、フィナーレは桜の名所を背景に全景の舞妓さん・芸妓さんが一斉に舞を披露します。このフィナーレがとにかく圧巻で、言葉を失うくらいの美しさです。
それぞれの景の歌詞や曲は毎回新しく書き下ろされているそうなので、毎年観に行っても楽しめますね。ちなみに2024年が光源氏がテーマでした。
終演後、内容はそっちのけで「どの舞妓さんが可愛かったか」を熱弁するKjを冷ややかな目で見つつ、食前酒を飲みに行くことにしました。
ルーフトップバー【in the moon】
食事まで時間があったので、南座の近くにあるルーフトップバー「in the moon」で軽く飲むことにしました。in the moonは京都でも人気のルーフトップバーで、この日も海外からの観光客で賑わっていました。
エレベーターで8階まで上がり、そこから階段で屋上へ。DJブースもあってクラブのようなノリのお店なので、若いお客さんが多かったです。
この日はとても暑かったのでモヒートで乾杯しました。ちょうど夕陽が落ちていく時間帯で、オレンジ色に染まる京都の街並みを眺めながらのモヒートは最高でした。
ルーフトップバーから四方を眺めると、京都が山々に囲まれた盆地であることを再確認できます。京都は景観条例の関係で建物の高さは31mまでと定められており、ちょっと高い建物に登れば京都一帯を見渡すことができます。
トリュフ風味のフライドポテトが美味しすぎておかわりしようとするKj嫁の暴走を制止し、食事に向かいます。
京都・祇園のワインバー【祇をん 尚】
この日の食事は、祇園のワインバー「祇をん 尚」です。
オーナーソムリエの尚一郎さんは私のホテルソムリエ時代の先輩で、かれこれ15年以上の付き合いになります。ソムリエとしての実力も間違いなし!京都のトップソムリエです。
この日は開店3周年のお祝いも兼ねて伺いました。
【乾杯】マルゲ ブリュット・ナチュール シャーマン 19 ロゼ グラン・クリュ
乾杯のシャンパーニュは、マルゲ ブリュット・ナチュール シャーマン19 ロゼ・グランクリュ。
「肉団子」の異名を持つ尚一郎さんが、その巨体には似つかわしくない華麗なサービスで注いでくれます。美しいシャンパーニュのオレンジピンクと、尚一郎さんの今にも破裂しそうな丸い顔は、先ほど in the moonで見た夕陽を彷彿させます。
マルゲは家族経営の小規模生産者で、自然派(ビオディナミ)の生産者としても高い人気を誇っています。そういえば、2023年ノーベル賞の晩餐会で乾杯に使用されたシャンパンも、このマルゲのシャンパーニュでしたね。
私は常日頃から、「シャンパンじゃなくて、正式にはシャンパーニュだよ」とドヤ顔で諭しているソムリエやワイン愛好家を、夜中に耳元を飛び回る蚊と同じくらい鬱陶しく思っています。しかし、数少ない読者の皆様に正式名称を覚えていただきたいので、ここではあえて「シャンパーニュ」と記載させていただきます。
さて、話を戻しまして、マルゲのシャンパーニュに合わせたお料理はホタルイカのサラダです。
春といえばホタルイカ、そしてホタルイカといえば富山県のイメージですが、実はホタルイカの漁獲量No.1は兵庫県なのです。ソウルフード「かつめし」と「明石に日本標準時子午線がある」くらいしか誇るものがない兵庫県民としては、これはなかなか鼻が高いです。
ホタルイカと春菊のおいしい苦味、辛口のロゼと相性が最高でした。
マルターディンガー・ヴァイスヴァイン 2017(ベルンハルト・フーバー)
続いてのワインは「マルターディンガー・ヴァイスヴァイン 2017(ベルンハルト・フーバー)」、ドイツの白ワインです。
フーバーは、ドイツワインにおいて実力も知名度もトップクラスの生産者です。特にシュペートブルグンダー(=ピノ・ノワール)というブドウから造る赤ワインが秀逸です。
ドイツでは比較的暖かいバーデン地方、マルターティンガー村にワイナリーを構えるフーバー。この村の地層はフランス・ブルゴーニュ地方から続いており、700年ほど前にこの地を訪れたシトー派の僧侶が「シャンボール・ミュジニィ(ブルゴーニュワインの銘醸地)と地質が似ている!」ということで、ピノ・ノワールを植えたと言われています。
このワインはシャルドネ、ピノ・ブランの2種類をブレンドした白ワインで、フレッシュながら樽熟成由来のヴァニラのような香ばしさと芳醇なコクが楽しめます。
カリフラワーの旨味が濃縮したスープとの相性を楽しみました。
オー・ボン・クリマ シャルドネ シエラ・マドレ・ヒストリック・ヴィンヤード2009
次はカリフォルニアから「オー・ボン・クリマ シャルドネ シエラ・マドレ・ヒストリック・ヴィンヤード2009」です。
オー・ボン・クリマはカリフォルニア、サンタ・バーバラを代表するワイナリーです。「オー・ボン・クリマ(Au Bon Climat)」とは、「良いクリマ(=テロワール)」という意味で、「ABC」の通称で親しまれ、世界的にも非常に人気があるワインです。
【テロワールとは?】
ワインの味を決める「ブドウ畑を取り巻く自然環境要因」のこと。「土地の個性」みたいな意味で使われることが多いです。
合わせた料理は白アスパラガスと黒鮑。極太の白アスパラガスもこの季節ならではですね。バターベースのソースとワインがもつ乳酸のニュアンス、そして柔らかい黒鮑の食感と肝ソースのほろ苦さが、熟成由来のコクと非常によくマッチしていました。
また、同じワインでスープ・ド・ポワソンも合わせていただきました。
スープ・ド・ポワソンは南フランスの地方料理で、魚・香味野菜・ハーブなどをじっくり煮込んで旨味を濃縮させたスープです。こちらは「祇をん 尚」シェフのスペシャリテ(得意料理)で、他では味わえない逸品です。
どちらの料理も、15年ほど熟成したワインと良く合っていました。酸味が落ち着いていない若いヴィンテージの白ワインでは、出せない相性だったと思います。
通常、古いヴィンテージのワインは開栓したらその日のうちに売り切らないと味が落ちてしまうので、グラスワインで提供してくれるお店はほとんどありません。
「祇をん 尚」は特殊な装置を使用していて、古いヴィンテージのワインをグラスワインで提供してくれる数少ないお店です。どんな装置を使用しているかは、ぜひ実際にお店に行って確かめてみてください。
テッレ・ネーレ エトナ・ロッソ・カルデラーラ・ソッターナ 2021
赤ワインはイタリア・シチリア地方から、「テッレ・ネーレ エトナ・ロッソ・カルデラーラ・ソッターナ 2021」です。
ヨーロッパ最大の活火山として知られるエトナ山の麓には、溶岩や火山灰を豊富に含む独特な黒い土壌が広がっており、良質なブドウが栽培されています。
エトナのワインは近年人気が高まっていて、その中でもこのテッレ・ネーレのワインは秀逸です。しっかりコクがありながらキレイな酸味、とてもエレガントな(=品格のある)味わいでした。
合わせた料理はスペイン産プーレ・ジョーヌ(地鶏)のローストです。地鶏の旨味とワインの心地よい渋味の相性がとても良く、どちらかと言えばワインが料理の味を引き立たせてくれる組み合わせでした。
この時間帯から、普段は饒舌なKくんの口数が少なくなっていました。酔ってるのかと思っていましたが、後から聞いたところズボンのウエストがキツすぎて苦しかったそうです。
パオロ・ベルタ グラッパ 1990
食後酒はイタリアのグラッパ(パオロ・ベルタ)、しかも1990年です。おそらく1990年のパオロ・ベルタを飲める店は日本にほとんどないのではないでしょうか。
グラッパとは、ワインを造った後のブドウの搾り滓(かす)から造られる蒸留酒で、「滓取りブランデー」とも言われます。
ワインを蒸留して造るブランデーと異なり、荒々しくて個性の強い味わいなのですが、このパオロ・ベルタのグラッパは別です。スムース&エレガントという言葉がぴったりなほど滑らかで洗練された味わい。かつグラッパ特有の風味はしっかり楽しめる唯一無二の蒸留酒です。
パオロ・ベルタはミシュラン星付きのイタリアレストランには必ずオンリストされているようなグラッパで、味も値段も別格です。私は一番好きな蒸留酒は?と聞かれれば、このベルタのグラッパと答えます。
ベルタのグラッパはあまりに美味しすぎて、この味を知ってしまうと他の蒸留酒が飲めなくなってしまう可能性大なので、飲む際は自己責任でお願いします。
ちなみに写真はないのですが、デザートはシャルロット・オランジュでした。シャルロットとは、女性の帽子のような形をしたフランス起源のケーキですね。こちらも大変美味しくいただきました。
朝まで飲みました
「祇をん 尚」での幸せな食事後は、まだまだ飲み足りない様子のKjを連れてBar → 営業を終えた尚一郎さんが合流して焼肉 → Bar → Barと4軒ハシゴをし、朝の7時に泥酔状態でホテルに帰りました。
いやー、よく飲みました。京都は美味しいお店がたくさんあるので、また開拓しに行きたいと思います。