ワインには酸化防止剤が入ってるって聞いたんですけど、人体には影響ないんですか?最近ワインを飲む量も増えてきたので、体に悪いんじゃないかって心配で…。
確かに酸化防止剤って聞くと、なにやら体に悪そうな気がしますよね。ワインを飲むと二日酔いになったり頭痛がしたりするのは酸化防止剤のせいでは?とおっしゃるお客様も、実際にいらっしゃいます。
心配性なぴのこちゃんのために、今回はワインの酸化防止剤が体に悪影響なのかどうか解説したるわ。よく話題にあがる「酸化防止剤無添加ワイン」についてもな。ほな、しょうさんよろしく!
私に丸投げですか…。
【結論】ワインの酸化防止剤は人体に悪影響はない
結論から先に言いますと、ワインの酸化防止剤は人体に悪影響を与えるほどのものではありません。もちろん過度に摂取すれば悪影響を与えることがあるかもしれませんが、常識の範囲内の量でワインを飲むなら全く問題ないと言えます。
それを聞いて安心しました!早速ワイン飲んじゃおう。
「常識の範囲内の量」でな。
なぜワインの酸化防止剤が人体に悪影響はないのかを解説する前に、酸化防止剤について知っておきましょう。
そもそもワインの酸化防止剤とは?
酸化防止剤は、実はワイン作りにおいて必要不可欠なものです。ここでは、ワインにおける酸化防止剤の役割・目的について解説します。
ワインの酸化防止剤は「亜硫酸塩」
一般的に、ワインの酸化防止剤には亜硫酸塩が使用されます。硫酸の文字が入っているため危ない薬品のようなものをイメージされるかもしれませんが、ほぼ「SO2(=二酸化硫黄)」のことです。つまり、酸化した硫黄が水に溶け込んでいるような状態ですね。
亜硫酸塩は、食品の保存料や漂白剤にも使用される「食品添加物」でもあるため、私たちはワインに限らず様々な食材から亜硫酸塩を摂取していることになります。
酸化防止剤(亜硫酸塩)の役割・目的
ワイン作りにおける酸化防止剤(亜硫酸塩)の役割・目的は、主に以下の3つです。
- 酸化によるワインの「香味劣化」を防ぐ
- 雑菌の繁殖を防ぐ(=殺菌効果)
- 微生物の活動を抑制する(=再発酵の防止)
❶酸化によるワインの「香味劣化」を防ぐ
酸化防止剤(亜硫酸塩)の最も重要な役割は、読んで字のごとく、酸化を防いでワインの香味が劣化しないようにすることです。
ワインにとって酸化は大敵です。酸化はワインを変色させたり、味や香りの劣化を引き起こしたりするためです(酸味が強くなる、ツンとした刺激臭が発生するなど)。
ワイン中のアルコールが過度に酸化したら、酢酸になってしまうんや。そうなると、酸っぱすぎて飲めへん。亜硫酸が過度な酸化を防いでくれてるおかげで、僕らは美味しいワインを飲めてるんやな。
また、ワインの中に含まれる成分「アセトアルデヒド」も、酸化すると不快な刺激臭を発生させます。亜硫酸塩が酸化する前のアセトアルデヒドと結合して、刺激臭の発生を防いでくれるんですね。
ちなみに、適度な酸化はワインの香味を向上させる効果があります。こちらについては、ソムリエがワインを空気に触れさせるテクニック「デキャンタージュ」の記事で詳しく解説していますので、そちらをご覧ください(新記事作成予定)
❷雑菌の繁殖を防ぐ(=殺菌効果)
酸化防止剤(亜硫酸塩)の役割・目的の2つ目は、ワインの醸造過程における細菌の混入・繁殖を防ぐことです。
ワインの醸造過程では、常に雑菌が繁殖してしまうリスクと隣り合わせです。まず、ブドウ果皮にはワインにとって好ましくない酵母菌や様々なバクテリアが付着しています。これらが繁殖してしまうと、ワインの発酵が正常に進まなかったり、異臭が発生したりします。
そのため、殺菌作用がある亜硫酸塩を醸造過程で加えて管理しているのです。
❸微生物の活動を抑制する(=再発酵の防止)
酸化防止剤(亜硫酸塩)の役割・目的の3つ目は、微生物の活動を抑制してワインの再発酵を防ぐことです。
甘口ワインや無濾過ワインなどの通常より糖分が多いワインは、輸送途中にワインの温度が上がって酵母が再活性化し、再度アルコール発酵(=再発酵)してしまうリスクがあります。
アルコール発酵は、酵母が糖分をエタノールと二酸化炭素に分解する作用のことやったな。
もし再発酵が起こってしまえば、瓶内で炭酸ガスが発生します。非発泡ワインの瓶の強度ではそのガス圧に耐えられないため、瓶が破裂してしまうこともあります。
そのため、亜硫酸塩を加えて酵母を弱らせ、ワインの再発酵を防いでいるのです。
酸化防止剤(亜硫酸塩)はワインの酸化を防ぐだけじゃなくて、雑菌の繁殖を防いだり再発酵を防いだり、ワイン作りには絶対必要なものなんですね。心配しすぎでした。
ワインに酸化防止剤(亜硫酸塩)が添加されるタイミング
亜硫酸塩はワインの酸化防止以外にも、細菌や悪玉酵母の活動を抑制する目的で使用されるため、ワイン作りの様々なタイミングで添加されます。
近年増えているのは、ブドウの収穫段階で亜硫酸塩を添加することです。収穫したての新鮮なブドウが劣化しないように、微量の亜硫酸塩を加えるのです。
またその後も、複数のワインをブレンドする際や、樽熟成、瓶詰めなど、雑菌の繁殖や酸化のリスクが高いタイミングごとに亜硫酸塩は添加されます。
こんなにたくさんのタイミングで酸化防止剤(亜硫酸塩)を添加するんですか。さすがに、添加量は決まってますよね?
良い質問ですね、ぴのこさん。もちろん決まっています。そしてそれこそが、亜硫酸塩が添加されているワインが人体に無害な理由です。
ワインの酸化防止剤(亜硫酸塩)が人体に無害な理由
ワインの酸化防止剤(亜硫酸塩)が人体に無害な理由は、「使用される酸化防止剤の量が人体に影響がないレベルの微量」だからです。亜硫酸塩が様々な食品に使用されていることは先述のとおりですが、他の食品に比べてもワインの酸化防止剤は低濃度です。
厚生労働省の告示第370号「食品、添加物等の規格基準」によると、各食品に認められている酸化防止剤の残存量(二酸化硫黄としての残存量)は以下の通りです。
食品名 | 二酸化硫黄としての残存量 |
---|---|
かんぴょう | 5.0g/kg未満 |
乾燥果実(干しぶどうを除く) | 2.0g/kg未満 |
干しぶどう | 1.5g/kg未満 |
コンニャク粉 | 0.90g/kg未満 |
乾燥じゃがいも ゼラチン ディジョンマスタード | 0.50g/kg未満 |
果実酒(果実酒の製造に用いる酒精分1容量パーセント以上を含有する果実搾汁およびこれを濃縮したものを除く) 雑酒 | 0.35g/kg未満 |
え、ドライフルーツってワインよりも酸化防止剤の残存量が多いんだね。
たまに、ワインの酸化防止剤は気にするくせにドライフルーツむしゃむしゃ食べてる人おるよな?無知って悲しいわ。
こらこら…
また、EU規定における各ワインごとの亜硫酸塩の最大含有量は以下のとおりです。
ワインのタイプ | 亜硫酸塩の最大含有量 |
---|---|
極甘口ワイン | 400mg / ℓ |
甘口ワイン | 350mg / ℓ |
中甘口ワイン | 300mg / ℓ |
残糖分5g / ℓ以上の白ワイン | 250mg / ℓ |
残糖分5g / ℓ以上の赤ワイン | 200mg / ℓ |
辛口白・ロゼワイン | 200mg / ℓ |
辛口赤ワイン | 150mg / ℓ |
上記の通りワインの亜硫酸塩は、人体に悪影響が出ないくらいの低濃度に規定されています。また、ワインに残存した亜硫酸塩も、熟成とともに様々な成分と結合して無害化・減少していくため、実際の添加量に比べて人体への摂取量はもっと少なくなります。
ただし、アレルギーや重度の喘息をもっている方は、たとえ低濃度であっても発作を引き起こすリスクあります。喘息の方は医師からワインの摂取を止められる場合もありますので、気をつけてください。
酸化防止剤(亜硫酸塩)無添加ワインについて
色々説明してもらって、酸化防止剤が人体に悪影響はないと分かりました。それでも、1mgでも体内に入れたくないって人は、酸化防止剤無添加ワインを飲めば良いですよね!
ぴのこちゃん、いくら酸化防止剤無添加でもワイン中の亜硫酸塩はゼロではないんやで。
え、そうなの?
酸化防止剤無添加ワイン=亜硫酸塩ゼロではない
日本でも「酸化防止剤(亜硫酸塩)無添加ワイン」というものが売られています。醸造過程〜瓶詰め時に到るまで亜硫酸塩を一切加えていないワインで、比較的ライトで甘口なワインが多い印象です。
ただ、亜硫酸塩はワインの醸造過程において酵母が自然発生させる成分でもあります(10g/ℓほど)。それゆえ、厳密に言えば酸化防止剤無添加ワインも亜硫酸塩ゼロのワインではないのです。
亜硫酸塩を全く体内に入れたくないからといって無添加ワインを飲んでいても、残念ながらその目的は達成されていないことになります。
そうなんだ…。無添加っていうくらいだから、てっきり亜硫酸塩がゼロのワインだと思ってた。
そういえば、亜硫酸塩の目的って酸化防止だけではなくて、醸造中に雑菌の繁殖を防ぐこともありましたよね?無添加でどうやって健全なワインを作ってるんですか?
酸化防止剤(亜硫酸塩)無添加ワインの作り方
ワインの醸造過程は、常に過度な酸化と雑菌繁殖のリスクにさらされています。それらを防ぐために酸化防止剤を加えるわけですが、酸化防止剤無添加ワインはそれができません。
一般的には、瓶詰め前のワインを60〜70℃で加熱処理します。低温での加熱処理とはいえ、もちろん多少なりとも風味は損なわれます。
他にも、「フィルター処理をする」「醸造の現場を気密化する」「雑菌に強い酵母の選定」「可能な限り酸素に触れない瓶詰め技術など、酸化防止剤無添加ワインを作るために様々な技術が使われています。
「自然」なワインを追求して無添加という手法にたどり着いたのに、その実現のために科学技術に頼らないといけないのはちょっと皮肉な話ね…。
そこのセンチメンタルガール、たまにはええこと言うやんか。必要不可欠な酸化防止剤を拒否してワインを作ること自体が不自然なことやと、おれも思うけどな。
変な呼び方しないでよ…。そういえば、オーガニックワインも酸化防止剤無添加ワインの仲間なんですか?
酸化防止剤(亜硫酸塩)無添加ワインとオーガニックワインの違い
酸化防止剤無添加ワインとオーガニックワインは同じだと考えられがちですが、実は全く違います。
オーガニックワインとは農薬や除草剤、化学肥料などを使わない「有機栽培」で育てられたブドウのワインを指します。通常のワインに比べて酸化防止剤の添加量は控えめにされる傾向がありますが、全く使用していないわけではありません。
オーガニックワイン=酸化防止剤無添加ではありませんので、覚えておいてください。
なるほど。じゃあ、ビオワインも酸化防止剤無添加ではないということですか?
ビオワインもオーガニックワイン同様、酸化防止剤が無添加というわけではないです。ビオワインについては話すと長くなるので、また別記事で詳しくご紹介します。(別記事作成予定)
どうしても酸化防止剤(亜硫酸塩)の量が気になる方へ
どうしても酸化防止剤の量が極力少ないワインが良いという方には、有機栽培認証機関による認証ワインがおすすめです。
代表的な有機栽培認証機関には、EUの「Euro leaf」、フランスワインの「Nature et Progrès」「ABマーク(Agriculture Biologique)」「ECOCERT」、ドイツワインの「Demeter」などがあります。
これらの機関による認証ワインは、EUの規定よりも平均25〜35%ほど酸化防止剤(亜硫酸塩)の残存量が少ない傾向にあります。数値的な安心が欲しい場合は、これらのワインを探してみると良いでしょう。
日本ワインでは、ラベルに「有機農産物加工酒類」や「有機農畜産物加工酒類」の記載があるワインにあたります。これらは農林水産省の定める第三者機関(JAS)が認証したワインなので、酸化防止剤の添加量も少ない傾向にあるでしょう。
まとめ
世界のワイン作りの流れとしては、酸化防止剤(亜硫酸塩)の添加は極力減らしていく流れになっています。添加量についても厳しい基準を設けて作られているワインがほとんどなので、そこまで神経質にならなくても良いでしょう。
それに、酸化防止剤を減らしすぎると、雑菌に汚染された香りも味わいも低品質なワインが生まれてしまいます。そんなワインは飲みたくないですよね?
そもそもワイン自体、嗜好品なのです。「酸化防止剤の有無」をワイン選びの基準にするのではなく、生産地・ブドウ品種・作り手・味わいなど、自分の好みを最優先に選ぶ方が楽しいワインライフを送れるのではないでしょうか。
- ワインに含まれる酸化防止剤(亜硫酸塩)は人体に悪影響ではない
- その理由は、人体に害がない程度の添加量に制限されているため
- 酸化防止剤(亜硫酸塩)はワインの醸造には必要不可欠
- 酸化防止剤(亜硫酸塩)をワインに添加する目的は、「酸化による香味劣化を防ぐ」「雑菌の繁殖を防ぐ」「微生物の活動を抑制して再発酵を防ぐ」の3つ
- 厳密には、酸化防止剤(亜硫酸塩)ゼロのワインは存在しない(醸造過程で酵母の働きにより自然生成されるため)
- なるべく酸化防止剤(亜硫酸塩)の量が少ないワインを飲みたいなら、有機栽培認証機関の認証ワインがおすすめ
- 有機栽培認証機関には、「Euro leaf」「Nature et Progrès」「ABマーク(Agriculture Biologique)」「ECOCERT」「Demeter」などがある