マリアージュ研究では、料理とワインの相性(マリアージュ)を独断と偏見と愛で考察します。また、究極のマリアージュを探求するための備忘録としても、記録にも残していくことを目的としています。
内容はあくまでソムリエとしての個人の見解です。他人が美味しいと思っているものにケチをつけたがるグルメ警察の皆様や、知識だけ豊富なワインマニアの皆様は、今すぐページを閉じられることをおすすめいたします。
第1回は、これまで様々な料理とワインを合わせてきた中でNo.1だったマリアージュを回想します。
【料理】カルガモのパイ包み焼き 赤ワインソース
今回の料理は「カルガモのパイ包み」。当サイトでおなじみの、私の先輩ソムリエが営む京都・祇園のフレンチ「祇をん 尚」で提供していただきました(2023年冬)。
約40年間生きてきて、カルガモを食べたのは初めてです。鴨の仲間なので、今まで食べてこなかったのが不思議といえば不思議ですが…。
私の中でカルガモといえば、実家の近所にある池や親子のお引っ越し動画でその姿を見かける、愛くるしいヤツといったイメージです。そんな彼らを食べるなど、、、考えただけでヨダレが止まりません。
ちなみに、この記事を読んで(カルガモ食べたい!)と思っても、野生のカルガモを捕獲しないようにしましょう。この素晴らしき法治国家日本には「鳥獣保護法」というものがあり、原則として野生の鳥類・哺乳類やそれらの卵を捕獲することが禁止されています。
そういえば数年前、在日のベトナム人がカルガモを捕獲し、逮捕されていましたね。よほど日本食が口に合わなかったのでしょう。
しかし、なぜカルガモだったのでしょうか。もう少し捕獲レベルが低そうな野生動物を狙っても良さそうなものですが…。ちなみに気になる捕獲方法ですが、「後ろからそっと近づいて手で捕まえた」とのことです。そんな方法で2羽の捕獲に成功していたのです。時代が時代ならば、彼は集落の英雄か伝説の忍びになっていたことでしょう。
そんなベトナム人の捕獲スキルの高さに思いを馳せていると、目の前にカルガモのパイ包みが運ばれてきました。
カルガモの肉をパイ生地で包んで焼き上げた料理です。カルガモの肉だけでなく、フォワグラも一緒に包まれています。肉の火入れが芸術的ですね。
カルガモの野性味とフォワグラのねっとりとした旨味、バターの風味がしっかりきいたサクサクのパイ生地、赤ワインのソースが渾然一体となって、素晴らしい味わいです。
料理の完成度が相当高いので、合わせるワインが難しいです。中途半端に合わせると、料理もワインも台無しになってしまいかねません。これは正直なところ、なかなかの難題でした…。
合わせるワインを考察
ここからは真面目な話をします。
マリアージュを考えるときは、「料理のどの要素にワインを合わせるか」を考えることが大事です。
一般的には、メインとなる食材に合わせるか、ソースに合わせるかになります。今回であれば、カルガモの風味にワインを合わせにいくか、赤ワインソースの味にワインを合わせにいくか、といったところです。
セオリーでいけば、「ブルゴーニュの熟成した赤ワイン」でしょうか。鴨肉の野性味や鉄っぽい風味は、ブルゴーニュの熟成赤ワインとよく合います。赤ワインのソースとも、相性が良いでしょう。
これが、ソースにトリュフが入っていたりすると話は変わってきます。その場合は、同じくトリュフのような風味を持つ「ボルドーの熟成した赤ワイン(メルロー主体)」が良いかもしれません。今回はシンプルな赤ワインソースでしたので、ブルゴーニュが最有力候補といったところですね。
さて今回、私は少し違う角度からアプローチしたため、ブルゴーニュの赤ワインは選びませんでした。では、一体どんなワインを選んだのでしょうか。
ポイントは、「カルガモの美味しさを倍増させるには?」と「フォワグラの存在」です。
【ワイン】アマローネ・デッラ・ヴァルポリチェッラ・クラシコ 2015(ラルコ)
私が合わせたワインは、イタリアワインの「アマローネ」です。そして結果的にこれが、私のこれまでのソムリエ人生でNo.1のマリアージュとなりました。
【アマローネ・デッラ・ヴァルポリチェッラ・クラシコ 】
生産地:イタリア ヴェネト州
生産者:ラルコ
原産地呼称:D.O.C.G アマローネ・デッラ・ヴァルポリチェッラ
ブドウ品種:コルヴィーナ、ロンディネッラ、モリナーラ
生産年:2015年
ボディ:フルボディ
<特徴>
干しぶどう、干しイチジク、カシスのジャムなど濃厚な甘いベリーの香り。メイプルシロップ、黒胡椒、甘草、などのスパイス。コーヒー、チョコをまとったオレンジピール、ブリオッシュ(バターたっぷりの菓子パン)などの甘く香ばしい香り。タンニンはシルクのように滑らか、余韻が30秒以上と驚くほど長い。
アマローネとは、イタリアのヴェネト州で造られる「陰干しワイン」です。収穫したブドウをレーズン状になるまで日陰で干して、その糖度が凝縮したブドウを絞って造る辛口赤ワインです。
一般的な赤ワインには無い、ジャムのように甘い濃厚なブドウの果実味が感じられる、唯一無二のワインです。
アマローネを選んだ理由は、ただ合わせるのではなく相乗効果を狙ったからです。ポイントは「カルガモの美味しさを倍増させるには?」と「フォワグラの存在」でしたね。
鴨肉の料理には、ベリー類を使った少し甘いソースを合わせることがあります。これは鴨肉の旨味を倍増させる組み合わせです。そしてフォワグラには、ポートワインのような甘い風味のワインがとてもよく合います。
私は、料理のどれか一つの要素にワインを合わせるのではなく、鴨肉やフォワグラを美味しくする「ベリー類を使った甘めのソース」や「甘いポートワイン」の役割をアマローネにさせることで、料理全体が美味しくなる相乗効果を狙いました。アマローネは先述のとおり、ジャムのように甘いベリーの香りをもっているからです。
これがどうやら功を奏したようで、過去No.1のマリアージュ体験となりました。このマリアージュは控えめに言って天才です、自画自賛させてください(笑)。
カルガモのパイ包み焼きとアマローネ、今のところ究極のマリアージュと言って良いのではないでしょうか!
まとめ
今回のマリアージュは、「祇をん 尚」シェフの料理がパーフェクトだったことに加え、選んだアマローネがその完璧な料理に負けないクオリティであったこと、そしてこの私の天才的な角度からのアプローチ(すみません…)が生んだ、奇跡のマリアージュです。
やはり、アマローネが秀逸でした。
「ラルコ」という生産者は、最高峰のアマローネ生産者「ジュゼッペ・クインタレッリ」のもとで修行した生産者なのです。ちなみにジュゼッペ・クインタレッリのアマローネは、私が最も感動したワインです。(目が飛び出るほど美味しいですが、値段も目が飛び出ます…)
ジュゼッペ・クインタレッリのワイン造りを受け継いでいるなら、このクオリティの高さは納得です。しかも、クインタレッリのアマローネの10分の1ほどの価格なので、ラルコのアマローネを見つけた方はぜひ飲んでみることをおすすめします。