先輩ソムリエの尚一郎さんが経営する京都・祇園のフレンチ「祇をん 尚」で開かれた、テヌータ・ルーチェのワインメーカーズディナー。
前編はこちら
後編はメインのワインが登場します。
ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ 2019(テヌータ・ルーチェ)
シャンパン、白ワイン2種を飲んでかなり良い気分になってきたところで、いよいよテヌータ・ルーチェの赤ワインに突入です。
1本目は「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ 2019」。
【ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ 2019】
・生産者:テヌータ・ルーチェ
・生産地:イタリア トスカーナ州 モンタルチーノ地区
・原産地呼称:D.O.C.G ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ
・ブドウ品種:サンジョヴェーゼ・グロッソ100%
・生産年:2019年
・ボディ:フルボディ
<味わいの特徴>
ブラックベリーのコンポート、干したプラムなど濃縮されたベリーの香りに、リコリス(甘草)やシナモン、ブラックペッパーなどのスパイス、スミレの花の香り、奥の方にジャーキーのような野生的なニュアンスも。タンニンは非常に滑らかで柔らかく、しっとりコクのある味わい。
ブルネッロ・ディ・モンタルチーノは、イタリアのワイン法の中では最上位の「D.O.C.G」に格付けされているワイン産地(=ワイン名)です。
ブルネッロとは、この地で作られるブドウ品種「サンジョヴェーゼ・グロッソ」の愛称です。つまり、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノとは、「モンタルチーノエリアのブルネッロ(=サンジョヴェーゼ)」という意味のワイン名になりますね。
このように、イタリアのワインの名前は「品種名+地区名」というものが結構多いです。ちなみに、モンタルチーノ地区の場所はこんな感じです。
私の中でブルネッロ・ディ・モンタルチーノというワインは、若いうちは固くて香りも味わいも開いていない、つまり長期熟成して美味しく飲めるワインというイメージです。
ところが、今回のテヌータ・ルーチェのブルネッロ・ディ・モンタルチーノは、2019年という若いワインにもかかわらず今飲んでも十分に美味しい味わいでした。果実味たっぷりで、渋味もザラつくことなく滑らか。私のイメージとは正反対のワインでした。
この理由は、アルベルトさんの説明で納得できました。
モンタルチーノ地区は、ドーム状の山のてっぺんに村があって、その村を囲んで360度にワイン畑が広がっているそうです。テヌータ・ルーチェが所有している畑は南西エリアにあり、標高は420m。北のエリアよりも日照が良く水捌けも良いので、完熟した良質なブドウが獲れるそうです。
つまり、私のブルネッロ・ディ・モンタルチーノのイメージ「若いうちは固くて渋いワイン」というのは、モンタルチーノ北側エリアの生産者のものであって、南側の生産者のものとはスタイルが違うとのことでした。
こういう話が聞けるのも、ワインメーカーズディナーの面白いところです。
合わせた料理は、「岩手県 門崎牛 レバーのムニエル」。
野性味の強いブルネッロ・ディ・モンタルチーノに、鉄っぽい風味のレバーを合わせてくるあたり、さすがシェフです。
ミディアムレアに火が通されたレバーのうえに、エシャロットのソースがかかっています。
これは、私の中で当日ナンバーワンのマリアージュでした。レバーのようにクセが強い食材をワインに合わせるのはなかなか難しいのですが、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノがうまく包み込んでくれましたね。
「祇をん 尚」シェフ、恐るべし…
次はいよいよ本日のメインワイン、「ルーチェ」の登場です。
ルーチェ 2008 マグナムボトル(テヌータ・ルーチェ)
このワインを飲むために京都まで駆けつけたと言っても過言ではありません、「ルーチェ 2008 マグナムボトル」の登場です。
マグナムボトルは、通常の2倍の容量(1,500ml)のボトルです。通常のボトルよりも良い熟成をすると言われています。しかもなんと、ルーチェ 2008のマグナムボトルは日本にあと1本しかないとのことでした。こんな貴重なワインを飲めるとは嬉しすぎます!
【ルーチェ 2008(マグナムボトル)】
・生産者:テヌータ・ルーチェ
・生産地:イタリア トスカーナ州 モンタルチーノ地区
・原産地呼称:I.G.Tトスカーナ
・ブドウ品種:サンジョヴェーゼ50%、メルロー50%
・生産年:2008年
・ボディ:フルボディ
<味わいの特徴>
深いガーネット色に、ワインの淵は熟成ワインに見られるレンガ色。干しプラム、ブラックベリーのジャム、カカオやチョコレートの風味も。甘草やシナモン、なめし革や腐葉土などの枯れたニュアンス。リッチでクリーミー。タンニンはシルクのように滑らかで驚くほど余韻が長い。
ルーチェは外来品種であるメルローを使用しているため、ワイン 法上では下から2番目の「I.G.T」という格付けに分類されています。I.G.Tトスカーナ、つまり「トスカーナ地方で造られたワインでっせ〜」くらいの定義です。
上級格付けに分類されている先ほどのブルネッロ・ディ・モンタルチーノは、「モンタルチーノ地区のブルネッロ(=サンジョヴェーゼ)というブドウから造られてます」と詳細に定義されているワインです。えらく扱いが違いますね。
とはいえ、前編でお話ししたようにルーチェはスーパータスカン(スーパートスカーナ)です。ワイン法を超えた存在なので、上級格付けワインに味も価格も引けを取りません。
飲んでる最中に思い出したのですが、ルーチェの2008年ヴィンテージは、私がホテルでソムリエをしていた頃にワインリストに載せていたワインでした。時を超え、かつて自分が扱っていたワインを飲む感動は、筆舌に尽くしがたいものがありました。
その感動をアルベルトさんやソムリエ尚一郎さんに伝えようとしたのですが、うまく言葉が出てきません。筆舌に尽くしがたいのではなく、自分に語彙力が無いだけだったと気づくのにそう時間はかかりませんでした。
そうこうしているうちに、メインディッシュが運ばれてきました。
フランス・シストロン産の最高級仔羊です。クレープとピーマンのファルシ(羊肉の詰め物)が付け合わせとして添えてあります。肉の火入れ、完璧です!
メインディッシュは、おそらく牛肉だろうと予想していました。トスカーナ地方には「ビステッカ・ア・ラ・フィオレンティーナ(牛肉のTボーンステーキ)」という名物料理があるからです。トスカーナの赤ワインとこの名物料理の組み合わせは最高です。
おそらく、ルーチェがサンジョヴェーゼだけの純粋なトスカーナワインではないため、あえて牛肉は外したのではないしょうか。メルローが50%使われていますからね。メルローを使った赤ワインには、仔羊の料理が非常によく合います。
メインのワインにふさわしく、素晴らしいマリアージュでした。
グラッパ(テヌータ・ルーチェ)
ワインで終わりと思いきや、食後酒として「テヌータ・ルーチェ」のグラッパまで用意されていました。
グラッパとは、ワインを造った後にできる「ブドウの搾り滓」を蒸留して造るブランデーのことで、滓取りブランデーとも呼ばれます。ワインを蒸留する通常のブランデーとは異なり、荒々しく個性の強い味わいに仕上がります。
ルーチェのグラッパは、ルーチェを造った後のサンジョヴェーゼとメルローの搾り滓から造られます。グラッパは本来捨てるはずの材料で造るリーズナブルなブランデーなのですが、ルーチェのグラッパはとても贅沢ですね。
上品でスムースな舌触り、これぞ高級グラッパ!という風味です。
アルベルトさんによれば、グラッパに水を一滴だけ垂らすことでより風味が良くなるとのことでしたので、参加者みんなで水が入ったグラスから一滴だけ垂らすチャレンジをしてみました。みんな酔っ払っていたので、誰一人成功しませんでしたが…。
フランス語で「秋のケーキ」を意味するガトーオートンヌとグラッパを楽しみました。ガトーオートンヌは様々なレシピがあるケーキなのですが、チョコ、アーモンドやビスケット生地、秋の食材のクリームなどを何層にも重ねたケーキと言ったところでしょうか。
デザートまで大変美味しくいただきました。
ワインメーカーズディナーの終わり
楽しい時間ほどあっという間に過ぎるというのは本当ですね。気づけばメーカーズディナーもお開きの時間となりました。
メーカーの方から直接お話を伺いながら飲むワインは格別の味でした。テヌータ・ルーチェのワインがさらに好きになりました。
また、ワインと料理を合わせることの楽しみ、そしてその時間が心をとても豊かにしてくれることなど、色々と再認識できた時間となりました。
やっぱりワインは楽しいです。またワイン業界の仕事もしたいなと思える1日になりました。
皆様も機会があれば、ぜひテヌータ・ルーチェのワインを飲んでみてください。